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2017年4月3日月曜日

演習問題 状況判断のテクニックとして使えるMETT-TC分析

戦術の研究では、さまざまな状況を総合し、自らの行動をいかにすべきかを判断することを状況判断といいます。

状況判断で大事なことは、自分を取り巻く状況をくまなく考慮することであり、特に任務判断、地形判断、敵情判断が重要な要素となります。

今回は、米陸軍の教範で状況判断を行うための具体的な方法としてMETT-TC分析を紹介したいと思います。

METT-TCとは何か
METT-TCは元来、比較的小規模な部隊が任務を遂行する際に考慮すべき事項の頭文字をとったものであり、具体的には以下の要素のことを指しています。

・任務(Mission)「指揮官は、上官の準備命令および作戦命令を分析し、その任務に部隊がどのように寄与するかを判断する」(FM 6-0: A-2)。

・敵情(Enemy)「再定義した任務を踏まえて、指揮官は敵情の分析に移る。小規模な部隊の作戦では、敵の編成、配備、戦力、最近の活動状況、増援の能力、選択可能な行動方針を知っていなければならない」(Ibid.: A-3)

・地形・気象(Terrain and weather)「指揮官は、OAKOCの頭文字で示される地形の5個の軍事的特徴を分析する。すなわち、視界・射界(observation and fields of fire)、接近経路(avenue of approach)、緊要地形(key terrain)、障害(obstacles)、隠蔽・掩蔽(cover and concealment)である」(Ibid.)「気象には5種類の軍事的特徴があり、それは可視性、風、降水量、雲量、温度、そして湿度である」(Ibid.: A-4)

・部隊(Troops)「恐らく、任務の分析で最も重要な点は、我の部隊の戦闘力を判断することである。指揮官は、兵士の士気、経験や訓練状況、隷下の指揮官の利点と欠点を知らなければならない」(Ibid.)

・時間(Time)「指揮官は、どれだけの時間が利用可能であるかを理解するだけでなく、準備、移動、戦闘、補給に関する時間と空間について理解しているべきである」(Ibid.)

・民事(Civil Consideration)「民事上の考慮とは、軍事作戦を遂行する作戦地域における人工の施設、民間の機関、民間人の指導者、住民、組織の活動が及ぼす影響である」(Ibid.)

METT-TCの分析で何が分かるのか
ここで想定を使って、METT-TC分析の要領とその意義を説明してみましょう。

戦力はほぼ同等の青と赤の両師団がX川を挟んで対峙しており、東から西に向かって渡河点A、渡河点B、渡河点Cがあるとします。

そこで青師団長は本日夜間0300に渡河点Aから渡河攻撃を行い、赤師団の主力を捕捉撃滅すると決心しました。この主攻を成功させるために、先行して第一分遣隊を渡河点B、第二分遣隊を渡河点Cに展開し、敵の主力をそちらに牽制することを構想しています。

あなたは青師団の1個歩兵大隊を第一分遣隊として指揮し、渡河点Bで渡河攻撃を加えて、敵の主力を牽制するよう命令を受けました。

これは非常に単純な状況ですが、METT-TCを適用するとどのような分析が可能でしょうか。

解答者によって着眼点が異なる場合もありますが、原案として次のような分析の一例を示しておきます。

・任務 青師団主力の渡河攻撃を成功させるためには、可能な限り多数の敵を誘致、拘束することが重要となる。そのため大隊としては敵に対して積極的かつ継続的に攻撃を加えることが目標となる。

・敵情 対峙する敵師団は河川に沿って戦闘前哨を配備して警戒に当たり、その後方に主力を拘置して我が方の主力の攻撃に備えている可能性が大きい。1個大隊の戦闘力で敵の部隊を拘束することには限界があると考えられるため、渡河点Cに派遣される第二分遣隊との連携を緊密にし、また夜襲による攪乱効果を最大限に活用する必要がある。

・地形 大隊が前進する渡河点Bは渡河点Aと渡河点Cの中間に位置している。したがって、渡河した大隊が占領する橋頭堡は重要な陣地であり、まず第二分遣隊の橋頭保との連絡線を確保し、さらに青師団主力が占領する橋頭堡とも速やかに連絡線をとができるようにする必要がある。

・部隊 敵師団主力との戦闘が予想されるが、我が方の戦力は必ずしもそれと互角の規模ではない。そのため、可能な限り損害を抑制することが必要であり、渡河した後は橋頭堡において直ちに応急防御の態勢に移らなければならない。また敵の火力に対抗できるように、師団の砲兵部隊に火力支援を要請する場面も予想される。

・時間 渡河攻撃を夜間に実施する場合、夜間に敵前で部隊の誘導をどのように実施するのかを考慮しなければならない。渡河のために使用できる舟艇はどこに配置しておき、どのような順番で乗り込むのか、渡河を開始してからどの方向に向かって進むのかを予め決めて訓練しておかなければ、行方不明になる兵士や敵に発見される部隊が出てくる危険がある。当日の払暁の時刻についても調査しておき、それまでに青師団主力が渡河を完了して戦闘に加入できるように計画することも重要である。

・民事上の考慮 この状況で特に考慮すべき条件はないが、敵に対する奇襲効果を得るために周囲の民間人に発見されることがないよう注意する必要がある。

ここで重要なことは、一見すると単純な状況であってもMETT-TC分析を行うと、検討すべきさまざまな問題や論点が浮かび上がってくるということです。

ここで述べていることをさらに詳細に検討していけば、次第に第一分遣隊としてどのような作戦計画を立案、実施すべきかを明らかにすることができるでしょう。

むすびにかえて
戦術を研究する人にとって、METT-TC分析はよい出発点となります。

それはあらゆる戦術問題に含まれる重要な条件を網羅するための手っ取り早い方法であり、戦術を知らない人に教育する際にも便利なチェックリストなのです。

状況判断を適切に行うことは戦術家にとってとても大事なことです。

どのような優れた戦術を着想できたとしても、大前提となる問題の認識に不備があれば、実行可能性は大きく損なわれてしまいます。

こうした事態を避けるためにも、METT-TCのことについて知っておくことは重要なことだと思われます。

KT

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参考文献
U.S. Department of the Army. 2014. Field Manual 6-0: Commander and Staff Organization and Operations, Washington, DC: Government Printing Office.
特にこの文献のAppendix A, Operational and Mission VariableがMETT-TCを解説している。

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