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2015年5月22日金曜日

学説紹介 戦闘で兵士の内面で何が起きるのか

戦場から戻ってきた兵士はその経験を生涯にわたって忘れることはありません。

その経験は兵士でない人々にとって理解しがたいことが多く、退役軍人は社会復帰しても深い孤独感にさいなまれることがしばしばあります。

軍事心理学の研究者たちは、戦闘という経験が兵士の心身の健康状態にどのような影響を与えるのかを長年考察してきました。

今回は、マーシャルとシャイの研究成果を紹介し、それらに基づいて戦闘経験が精神状態に与える影響を考察したいと思います。

戦闘ストレスから逃れようとする兵士
第二次世界大戦、太平洋戦域で従軍する米軍の兵士たち。マーシャルの研究によって実際に戦闘行動に参加して射撃している兵士が極めて少数であることを解明し、その後の戦闘訓練の考え方に大きな影響を及ぼした。: - National Park Service (National Archives). Marines mopping up Tinian Island drop into firing positions when enemy is sighted.
マーシャルは第二次世界大戦に従軍したアメリカ軍の兵士を調査し、軍事心理学の研究を発展させることに大きく貢献した研究者です。

彼は兵士に戦闘を回避しようとする一般的な傾向があるという大胆な仮説を打ち出したことでよく知られています。

彼の研究成果によれば、戦闘において実際に自分の武器を使用しているのは全体の15%から20%だと見積もられており、その原因として戦闘が兵士に与える身体的、心理的なストレスが大きいためであると説明されています。

ここで述べているストレスとは、必ずしも戦闘で自分の命を危険に晒すことだけではありません。

マーシャルによれば、兵士は敵を殺傷する行為そのものに対する嫌悪感を持っており、その遂行にストレスを感じてしまうのです。

したがって、戦闘ストレスは殺される恐怖だけでなく、殺すことへの恐怖が複合して生じていることになります。

この画期的な研究は軍事訓練のあり方を見直す必要性を強く示唆していました。従来の方法であれば、兵士をうまく戦闘に従事させることができないことは明らかでした。

後にマーシャルは朝鮮戦争にも派遣され、兵士の低い発砲率を改善するための訓練方法の研究に取り組み、55%程度にまで改善することができました。

そして、ベトナム戦争においては95%の発砲率を達成しています。

復讐のために戦闘にのめり込む危険性
訓練方法の改善によってベトナム戦争で従軍した兵士の発砲率は著しく改善されたが、戦闘を経験した兵士の中には味方を殺害された復讐を目的とする過剰な暴力行為や虐待行為をとる者が見られることも調査で明らかになってきた。Official Marine Corps Photo # 371490). U.S. Marines with Company G, 2d Battalion, 7th Marines, direct a concentration of fire at the enemy during Operation Allen Brook, 8 May 1968.
マーシャルの研究で、強いストレスから逃れようとするあまり、多くの兵士が発砲しない行動をとることが明らかになりました。

その対策としての訓練方法も発達したのですが、次第に戦闘の経験が兵士をより攻撃的にする効果もあることが明らかになってきました。

ベトナム戦争における米軍の兵士の行動を研究したシェイ(1995)は、戦闘を経験した兵士に攻撃的行動が見られることを考察しています。

その研究によると、常に一緒に行動するバディが戦闘で負傷する場面に一度でも出くわした兵士は、それ以後の戦闘で効果的に武器を使用し、敵を殺傷する行動に積極的に参加するようになるとされています。

そうした兵士は戦闘で敵を殺傷することに個人的な関心を持つようになるということです。

この研究が興味深い点は、敵と接触がない状態での負傷、つまり地雷や罠などで味方に死傷者が出た場合に兵士は強いストレスを感じることが指摘されたことです。

というのも、そうした状況では兵士たちが味方を助けるためにできることが何もないため、強い無力感にさいなまれるためです。

その結果として、兵士はいわば次の敵の部隊と交戦する際に、その機会を「復讐」として活用するため、戦闘に積極的に参加するのです。

こうした傾向は一見すると戦闘にうまく兵士が適用した結果であるように見えます。

しかし、シェイはこうした兵士はもはや軍隊の根幹である規律を十分に遵守できないと指摘しています。

しかも、こうした状態は長期化する危険も指摘されており、退役してから何年か経過した後になって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する確率も高くなるとされています。

むすびにかえて
これらの研究は戦闘という経験が兵士に与える影響には二面性があることが示唆しています。

戦闘は重度のストレスを兵士に与えるため、兵士はまず第一に戦闘を回避しようと行動する傾向にあるのですが、自分の仲間が目の前で殺される場面を目撃した兵士は一転して好戦的な行動をとろうともするのです。

そして、その行動は時として軍事的な合理性をはるかに超えた暴力行為、残虐行為に繋がる危険があります。

戦闘ストレスへの反応についてグロスマン(1995)は「戦闘で友や親族が死傷すると、敵を殺すのは容易になり、戦争犯罪も起こしやすくなる」と警告したことがあります。

戦場で心理的な問題を抱えた兵士を使い続けることは、軍事的な危険があるだけでなく、法的、道徳的な問題を引き起こす要因にもなり得ることは知っておくべきことではないでしょうか。

KT

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参考文献
Grossman, Dave. 1995. On Killing: The Psychological Cost of Learning to Kill in War and Society, Back Bay Books.(デーヴ・グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』安原和見訳、筑摩書房、2004年)
Marshall, S. L. A. 1947. Men against Fire: The Problem of Battle Command, Norman: University of Oklahoma Press.
Shay, J. 1995. Achilles in Vietnam: Combat Trauma and the Undoing of Character, New York: Simon & Schuster.



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