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2015年12月18日金曜日

論文紹介 中国の立場から見た在日米軍基地

日本にとって在日米軍が存在することは、中国が東アジア地域で自在に軍事行動を起こすことを妨げているため、中国軍としてその脅威を無視することはできません。
中国が在日米軍のプレゼンスをどのように判断しているかを知ることは、日本にとっても重要なことです。

今回は、中国の観点から在日米軍基地がどのように評価されているのかを検討した研究論文を紹介したいと思います。

論文情報
Yoshihara, Toshi. 2010. "Chinese Missile Strategy and the U.S. Naval Presence in Japan." Naval War College Review, 63(3): 39-62.
(https://www.usnwc.edu/getattachment/69198ee2-edc2-4b82-8f85-568f80466483/Chinese-Missile-Strategy-and-the-U-S--Naval-Presen)

在日米軍基地に対する中国の認識
中国がアジア太平洋地域における米軍基地の動向に重大な注意を払うのには理由があります
1996年の台湾海峡危機で米海軍が艦隊を派遣して予防展開した際に、中国政府はこれに対抗する手段を持っていなかったことが教訓となっているのです(Yoshihara 2010: 41)。
そして、中国は米国の海上戦力の圧力から自らの勢力圏を防衛するために在日米軍基地の価値に注目しているのです(Ibid.: 42)。

著者によれば、中国はアジア太平洋地域における米軍の基地のネットワークを分析した上で、そこに戦略的縦深を持たせた「三線配置」が形成されると見ています。
すなわち、その第一線は日本と韓国からインド洋のディエゴ・ガルシアに至る前方基地帯、第二線はグアムからオーストラリアまでを結びつける基地のネットワーク、最後の第三線はアリューシャン、ミッドウェー、ハワイ、アラスカを結ぶ線として表すことができます(Yoshihara 2010: 43)。
この「三線配置」において在日米軍基地はアジア太平洋地域における米軍基地ネットワークに属し、中国に最も近接した前方基地としての役割を果たすことになります。

つまり、中国がその国土の周囲で戦略的防衛線を構成するためには、この在日米軍基地の機能を低下させることが何としても必要となります。
中国軍の弾道ミサイルの射程を表した地図。
短距離弾道ミサイルDF-15の射程は点線で、
準中距離弾道ミサイルDF-21の射程は実線で示されている。
また中国軍の勢力圏の内部に位置する主要な日米の作戦基地が示されている。
(Yoshihara, T. 2010: 43)より引用。
中国の軍事戦略の特徴
さらに著者は、中国軍からの公認を受けた刊行物であり、中国軍の戦略について知ることができる貴重な資料である『軍事戦略の科学』の内容について検討し、そこから在日米軍に対して中国がどのような軍事戦略をとるのかを考察しています。

その著作によれば、中国は将来の戦争の様相について、高度化された技術をもって行われる局地戦を戦うことになると予想されています。そして、このような戦争で勝利を収めるためには、敵国の正面戦力を撃破することよりも、それを支援する作戦基盤を打撃することの方がより戦略的に重要となると考えられています(Ibid.: 47)。
つまり、敵と交戦する作戦地域を可能な限り前方へと推進することによって、我が方の作戦基盤が打撃を受ける危険を低下させると同時に、敵国の作戦基盤に打撃を加えやすくしなければならない、ということになります。

さらに著者は『軍事戦略の科学』からの引用として、「開戦後、我が方としては可能な限り遠方で敵と交戦し、戦争を敵の作戦基地、さらに敵の中核地域にまで導き、敵の戦争システムを形成する上で有効なあらゆる諸力を積極的に打撃できるように最善を尽くすべきである」という原則を紹介しています(Ibid.)。
これは中国の軍事戦略の在り方として、よく知られている接近阻止・領域拒否の考え方ともよく合致する議論です。

さらに、中国軍において最も権威ある刊行物の一つ『第二砲兵戦役の科学』では敵国の作戦基盤を攻撃目標とすべきだけではなく、その同盟国の作戦基盤についても重要な攻撃目標と見なすべきという考え方が示されています。
著者によれば、この文章では中国の敵国が中国周辺の同盟国の軍事基地を使用することがあれば、その軍事基地の機能を妨害するための打撃を加えることができる、とされています(Ibid.: 50)。

中国の戦略的思考を理解する重要性
これらの調査結果を踏まえるならば、中国は(例えば台湾有事によって)米国との戦争が始まったならば、その当然の帰結として、同盟国に対して武力攻撃を加える必要があると考えているものと判断されます。
著者は特に在日米軍基地に関する中国軍の見方を総合した上で、なぜこのような見解が形成されているのかを推測しています。
「中国の文書によれば、在日米軍基地に対する強制的な活動に対する反応を人民解放軍は受け入れたいと考えている複数の兆候が確認される。このようなエスカレーションをもいとわない傲慢な態度は、何によって説明することができるだろうか。第一に、これらの(中国軍の)文章は強制と抑止の理論が非常に未発達な段階にあることを示唆しているかもしれない。(中略)第二に、勝利することが極めて難しい近代的な戦争・危機に対する経験が乏しいことによって、エスカレーションを管理することは容易できると楽観している可能性がある」(Ibid.: 56)
中国の戦略家は欧米の研究者が考えているような戦略理論を共有していない可能性があるという指摘は、今後の対中戦略を考える上で重要な意味を持っています。中国がどのような理論に基づいて戦略を組み立て、解釈しているのか、さらなる研究が求められるところでしょう。

最後に、この論文で中国が在日米軍基地を最も重要な攻撃対象と位置付けているという分析を読んで、米軍基地の撤廃が直ちに必要だと考える方も一部にはいらっしゃるかもしれません。
しかし、在日米軍基地を撤廃した後に、中国が日本をより攻撃しやすくなったと判断してしまう可能性はどのように除去できるのでしょうか。台湾は中国の軍事的圧力に対してどのようにして自らを防衛すればよいのでしょうか。その後の東アジア地域の国際秩序はどのように維持管理すべきなのでしょうか。これらの問題を検討すれば、在日米軍基地の必要性を安易に否定することはできないのではないでしょうか。

KT

1 件のコメント:

  1. 米軍の日米防衛計画の方針で、もしも、日本が中国の攻撃を受けた場合(事実上の戦闘行為)、アメリカはDF21などの射程圏内から離れ、グアムに一時撤退するというアウトレンジ戦法を取るという話と、弾道ミサイルなどの射程圏内を気にしていては攻勢に出れないので、アウトレンジ戦法を放棄する(また、攻勢に出られるよう新たな戦法を生み出している)という話しが出てきているのですが、どちらが正しいのでしょうか?また、どちらが効果的だと思いますか?

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