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2016年4月7日木曜日

攻撃だけが戦車の仕事ではない

戦車という装備は、その速度を発揮して敵に迅速な攻撃を行う場合にこそ適しており、防御に回るとその能力を十分に発揮できないという考え方は、結局のところは間違っているのですが、普通の人からすれば説得力がないともいえません。
戦車の優位が優れた路外での運動性能にあることは事実ですし、そもそも陣地防御を行う場合に戦車がどのような要領で敵と交戦しているのかをイメージしずらいところがあるからかもしれません。

これまでにも戦術研究の観点から戦車小隊の運用方法に関して何回か取り上げていますが(戦車小隊の戦術とその隊形敵の戦車を側面から射つためには)、今回は陣地防御における戦車の戦術に関して説明します。戦車が陣地防御においても適切に運用すれば大きな戦果を上げることができるということを知って頂くきっかけとなればと思います。

陣地防御における戦車小隊の基本動作
戦闘陣地に展開した戦車小隊の各車両の射線は敵が接近の際に使用する経路を把握しておくだけでなく、小隊長においては車両ごとにどの目標を射撃するのかを予め指示しておくことで与えられた火力を最大限に敵に対して発揮できる。
(FM17-15: 105)
防御の本質は敵の攻撃を破砕することにあるため、必然的に防御に回る戦車小隊の車両はそれぞれ陣地で敵を待ち受ける態勢となります。
ただし、敵との交戦が始まると各車両は当初の陣地に止まり続けて戦うのではなく、事前に指定しておいた戦闘陣地へと移動を続けながら各要点で敵に射撃を加え続けるのです。
戦車小隊は通常だと4両で編成されていますが、こうした陣地転換の際には2両ずつ交互に敵を制圧しつつ移動を行うことで安全を確保することは、攻撃の交互躍進の要領の応用となります。

戦闘陣地でハル・ダウンとタレット・ダウンを使い分ける
しかし、戦車が陣地に配置されているからといって安心するわけにはいきません。戦闘陣地で戦車が射撃している際には、ハル・ダウン(Hull-down)という姿勢で射撃を行っています。
ハル・ダウンは戦車が射撃のために上部の砲塔部分を稜線から乗り出して暴露させているため、敵の射撃を受ける危険があります。もしハル・ダウンの位置に車両を前進させるとしても、その位置を占める時間を最小限にするように各車長、小隊長は留意する必要があります。
戦闘陣地では車長が完全に身を隠す状態、タレット・ダウン、ハル・ダウンを選択できる。
図の左側がハル・ダウンの位置であり、その右がタレット・ダウン、最も右側で戦車全体が障害に掩護されている。
(Ibid.: 110)
安全のために稜線の後ろへ後退すると、各車両は敵の所在を確認できなくなります。
そこで、射撃の前に敵情を確認したい場合には、各車両はタレット・ダウン(Turret-down)の位置まで前進することもできます。
タレット・ダウンでは戦車の最上部にあるキューポラ(車長が周囲の状況を確認するための展望塔)だけを露出させることで、車長が前方の敵情を確認することが可能です。タレット・ダウンであれば、ハル・ダウンよりも被害を受ける危険は遥かに小さくすることができます。

ただし、タレット・ダウンに危険がないというわけではありません。ハル・ダウンと同じようにタレット・ダウンも稜線から車体を暴露させることには変わりありません。
それゆえ戦車長は背後の地形に気を配る必要が出てきます。ハル・ダウンやタレット・ダウンが危険な理由は、稜線を超えて車体を敵に暴露しているだけでなく、空際線に乗り出してしまう状態であり、非常に目立ってしまうことと関係しています。

ハル・ダウンやタレット・ダウンで空際線に車体を乗り出させないためには、車両の背後に何かしらの地形があり、車体の輪郭線が空際線に重ならないことが必要です。そのような場所に戦闘陣地を設定するだけでも、敵からは発見しにくくなり、味方が敵の射撃を受ける危険も減少するのです。
空際線に車体を乗り出す場合と乗り出さない場合では視認性が大きく異なるため、車両の背後がどのような地形になっているのかを理解し、敵からどのように味方が見えているのかを注意しておくことが必要となる。
(Ibid.: 119)
敵を陣地正面に引き付け、効果的な逆襲を加える
敵の攻撃を陣地で待ち構えるだけが陣地防御ではありません。陣地防御の趣旨は敵の攻撃を破砕することですので、所定の陣地で戦い続けるだけでなく、適切な逆襲を加えることも陣地防御の重要な一部として理解しなければなりません。
2個の戦車小隊が防御陣地の正面で敵を引き付けて置き、予備で敵の側面に射撃を加える逆襲の一例。
(Ibid.: 125)
この図で示しているのは味方の一部で敵の側面に射撃を加えさせる逆襲の一例です。
戦闘陣地に配置された2個の戦車小隊が敵の部隊に対して射撃を加え、敵が自在に移動できなくなっているところを、予備として拘置しておいた戦車小隊を側面へと回り込ませることで側面から射撃を加えています。
ただし、逆襲で陣地転換を行う際には敵に察知されない経路を前進しなければなりません。

攻撃と防御の両方で戦車は真価を発揮できる
戦車は移動、射撃、防護、通信といった機能を備えた武器体系であり、適切に運用すれば攻撃と防御の両面で活用することができます。

機甲戦の研究で有名なフラー(J. F. C. Fuller)はかつて戦車が戦術に与えた影響を説明する際に、「第一に、戦車は機械力で筋力を置き換えることで運動性を向上させ、第二に弾丸を跳ね返す装甲を用いることで安全性を向上させ、第三に兵士が自分の武器を運搬することから解放することで攻撃力を向上させた」と述べたことがあります(Fuller 1936)。
フラーが述べた通り、陸上戦闘における戦車の優位は複合的な性格のものであり、特定の状況でのみ発揮される性質のものではありません。

武器が持っている価値はその運用方法によって左右される部分が小さくなく、戦車の真価もまた技術的観点だけでなく、それが戦場でいかに運用されるのかという戦術的観点から判断しなければならないでしょう。

KT

参考文献
Fuller, J. F. C. 1936. Memoirs of an Unconventional Soldier, London: I. Nicholson and Watson.
U.S. Department of the Army. 1996. Field Manual 17-15: Tank Platoon, Washington, D.C.: U.S. Governmental Printing Office.

2 件のコメント:

  1. ド素人質問なのですが。

    どうせ他の兵器と連携する前提なら、戦車自身の火力は削って装甲と機動力に重量割り振って撃たれながら敵の位置暴く役になって攻撃は味方の自走砲やらミサイルやらに任せるというのはどうなのでしょうかね。ガン無視されても困るから正面は抜けないけど弱いところなら抜ける程度の砲は積むとして。

    まぁそうなっていないということは、たぶん戦車に積める砲だけでも撃破出来ない対象はないくらい火力優位なのが現実で、戦車の装甲はたとえ砲削った分だけ厚くしても同世代敵戦車の砲を防げない程度の効果しかないって感じですかね。

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    1. 固定目標なら仰る方法でも対処できますが、刻々と座標が変化する移動目標に対しては、砲兵の間接照準射撃よりも戦車の直接照準射撃の方が正確かつ迅速に撃破できるため、やはり第一線で行動する戦車自体に火力が備わっている必要があります。ただ、最近の米陸軍では諸兵科連合大隊が編成され、大隊レベルで異職種の戦術的連携を図る考え方もあることを付記しておきます。詳細は(http://militarywardiplomacy.blogspot.jp/2016/06/blog-post_21.html)をご参照下さい。

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