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2016年4月28日木曜日

論文紹介 陣地攻撃の損害をいかに抑制するか

敵の防御陣地に対して攻撃を加えることは状況が許す限り避けるべきである、というのは戦術の鉄則です。強化された陣地で敵の部隊が待ち受けているところに、味方の部隊をわざわざ差し向けるようなことをすれば、多くの損害が出ることを覚悟しなければならないためです。

しかし、現地の状況からやむを得ず任務遂行のため陣地攻撃を行わなければならないことがあることも事実です。そこで戦術研究としていかに効率的な陣地攻撃を実施するのかという問題が出てくることになります。今回は、第二次世界大戦の最中にこの問題を検討した論文を紹介したいと思います。

文献情報
Barker, M. E. 1945. "Assault on Fortified Positions," Military Review, Vol. XXV, No. 1, April, pp. 3-7.

陣地攻撃を完遂することの難しさ
第二次世界大戦において、米軍はヨーロッパから太平洋にわたる広大な戦域で攻勢作戦を行いました。
当時、ドイツ軍と日本軍の部隊は各地で強固な防御陣地を構築し、米軍の攻撃を破砕しようとしたため、米軍部隊からは攻撃の過程で多くの犠牲が出ています。著者は陣地攻撃の困難さを承知した上で、局地的な防御陣地に対して有効な攻撃を加えるためには化学攻撃を組み合わせることが重要になっていると判断しました。

この論文の著者の最大の関心事はいかにすれば人的損害を最小限に抑制しながら陣地攻撃を成功させることができるのか、という点にあります。
まず著者が着目しているのは防御陣地の形態の相違であり、一人だけが入れるタコツボのような簡易な形態もあれば、鉄とコンクリートで構築された要塞までさまざまあると指摘しています(Barker 1945: 3)。イタリア戦線のアンツィオの戦いでドイツ軍が使用した掩体や、日本軍が活用した洞窟陣地であり、特に洞窟については入口をS字形にすることで進入しにくくする工夫が見られたことなども紹介しています(Ibid.: 4)。
こうした小規模な防御陣地に配備された部隊は迫撃砲、機関銃、手榴弾などを使用して抵抗し続け、また陣地の内部には地雷が敷設される場合もありました(Ibid.)。

著者はこれほどの施設、武器を利用して抵抗する敵を排除することは非常に難しいものの、弱点があると考えていました。それは自在に機動できないこと、そして戦闘で主導的地位を保持できないことです。そこで陣地攻撃ではこうした弱点を突くような戦術が必要であると考えました。

実戦の中で発展した歩兵の突撃要領
著者は陣地攻撃において重要なことは適切な突撃支援射撃に基づき同時に攻撃を加えることであり、そのためには少数の突撃班が主体的に活動するべきだとして次のように論じています。
「突撃は相互に支援している多数の野戦陣地に対して同時に実施し、多数の班の攻撃を同時に実施させ、特に突撃を受けた陣地にいる防御者の射撃効果を低下させることによって各班が相互に支援するものである。これらの突撃班は1個歩兵分隊または1個歩兵中隊によって実施し、場合によっては少数の戦車によって支援し、また常に迫撃砲と砲兵の射撃によって支援する。あらゆる場合において突撃班は突撃が進行している間は、個人が携行する武器を最大限に活用する」(Ibid.: 4)
ここで著者が指摘しているように、突撃は常に砲兵によって支援されていなければならず、最低でも敵の施設の一部を破壊し、その通信を混乱させなければなりません。
この砲撃の際に榴弾だけでなく白リン弾を使用して偽装のための草木を焼失させること、煙幕によって突撃する味方を掩護する方法についても触れられています(Ibid.)。
特に著者が重視したのは迫撃砲の価値であり、当時米軍で使用されていた107mm迫撃砲の正確性をもってすれば、支援射撃の最中に突撃班は敵陣付近に接近可能と書いています(Ibid.)。

しかし、こうした突撃支援射撃だけではなく、陣地攻撃では特殊な装備を使用する必要があります。
それは高性能爆薬、火炎放射器、バンガロール爆薬筒などであり、こうした装備がない場合は普通のガソリンと一緒に火炎放射器や白リン手榴弾を使用することも可能であると著者は説明しています(Ibid.: 5)。
敵陣の内部に進入すると近接戦闘の段階に入ってからも、火炎放射器や白リン手榴弾が威力を発揮すると説明されており、その理由は敵の兵士に火傷を負わせることができなくても、洞窟の奥に身を潜めた兵士の周囲の酸素を一瞬で奪うことができるためです(Ibid.: 6)。
いわば、敵を施設の中で酸欠に追い込みながら戦うことで、敵が待ち受ける中を味方が進むという状況を避けることができるということです。

むすびにかえて
陣地攻撃においては砲兵火力を十分に発揮し、突撃支援射撃を行った上で突撃を実施すべきという主張は戦術研究において一般的な見解ですが、火炎放射器や白リン手榴弾などを駆使した化学攻撃の要素をこれほど詳細に検討しているところは興味深く、化学戦の専門家でありながら歩兵の突撃要領に関する見識が感じられました。

第二次世界大戦に米軍が火炎放射器を使用したことは知られていますが、この論文を読むと日本軍が島嶼防衛のために地下施設を構築し始めたことと関係があったことが分かります。
著者はペリリューの戦い以降に日本軍が積極的に利用した洞窟陣地は通気性が悪く、化学攻撃に対して脆弱という戦術的弱点を正しく理解していました。こうした観点からこの論文を読むと、米軍の戦術研究を通じて当時の日本軍の戦術の限界についても考えさせられるところが少なくありません。

KT

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