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2016年6月21日火曜日

事例研究 新冷戦でレーガン政権が重視した海上戦力

冷戦の歴史で最も重要な役割を果たした兵器は核兵器であったことは間違いありませんが、米国が戦略を展開する上で通常兵器が果たした役割も決して小さなものではありませんでした。

ソ連が1979年以降に勢力拡大の動きを見せ、米ソ両国が新冷戦の時代に突入した際に、レーガン政権が通常戦力を強化したことは、核の時代においても通常兵器が不必要になったわけではなく、独自の有用性を保っていたことによるものでした。

今回は、当時のレーガン政権がどのような戦力を整備しようとしていたのかを紹介し、その意義について考察したいと思います。

新冷戦で必要とされた通常戦力の増強
1979年12月、アフガニスタンにソ連が侵攻することを決定したことは、米ソ関係にとって大きな打撃となった。
レーガン政権が強硬な対ソ政策を採用したことにより、ソ連軍に対抗し得る能力を米軍として整備することが要求された。
国防総省の報告書(Department of Defense Annual Report to the Congress)では、米軍の取るべき態勢について述べられています。

1982年に国防長官ワインバーガー(Caspar W. Weinberger)の名前で発表された報告書の冒頭の部分を読むと、ソ連の敵対的行動を念頭に置いて「残念ながら、われわれの過去の期待の多くは裏切られてきた」と述べられており(U.S. Department of Defense 1982: I-9)、ソ連に対して米国がそれまで取ってきた友好的、妥協的な姿勢を見直すことの必要性がはっきりと論じられています。

さまざまな分野が見直しの対象とされていますが、興味深いのは対ソ戦略の一環として「通常戦力の拡充と近代化」に高い優先順位を設定されている点であり、報告書では次のように述べられています。
「われわれの通常戦力の戦闘準備と支援能力を改善することはレーガン政権にとって高い優先順位を保持するが、しかしわれわれは明確に増大する脅威に対応するため通常戦力を近代化し、また拡充しなければならない。(中略)1981会計年度の補正予算と昨年2月に提出された1982会計年度の修正予算で始めたように、レーガン政権は通常戦力のための装備品に関する投資を継続的に増加させた。私はこの投資を現在の予算でも継続することを要請し、また次の5年間にわたって通常戦力に対する大規模な投資計画を継続するように提案する」(Ibid.: I-29-I-30)
ここから、レーガン政権において核戦力と通常戦力を総合した米軍の全般的な能力向上を図る姿勢が読み取れます。

通常戦力の整備には一般に核戦力の整備よりも多額の経費を要するため、この報告書においてレーガン政権として通常戦力の拡充のために国防予算の増額を必要とすることを主張する必要がありました。

特に重視された海軍の攻撃的能力
レーガン政権の下で近代化改修を経て1984年に再就役した戦艦「アイオワ」(基準排水量48,500t)
1943年に初めて就役してから第二次世界大戦、朝鮮戦争にも投入された長い歴史を持つ。
報告書では、具体的に改善すべき事項がいくつか示されていますが、ワインバーガーが特に気にしていたのは海軍でした。
「レーガン政権によって提案される最も重要な戦力拡充は海軍に関するものであり、特に攻勢的な任務を遂行するための要素に関するものである。1990年までにレーガン大統領が計画する艦艇の合計はカーター政権が計画したそれよりも約15%は超過するであろう。われわれの計画では2隻の新しい原子力航空母艦が1990年代初頭までに老朽化している「ミッドウェイ」級航空母艦に置き換わることが可能になるだろう」(Ibid.: I-30)
このような記述が報告書に盛り込まれた背景として、1980年代にソ連海軍の活動が北大西洋、地中海、日本周辺、ペルシャ湾、インド洋で活発化していたことが挙げられます

。ヨーロッパ、極東、中東等、どこに部隊を展開するとしても、海上交通路が頼りとなる米軍にとって、これは深刻な脅威となっていました。

そのため、レーガン政権はカーター政権が計画していた2倍の規模となる160隻の艦艇を調達することを目指すことになったのです。

また、単に海上戦力を増強しただけではなく、一貫して攻撃的能力を強化しようとしていたことも重要な特徴でした。

レーガン政権は海上から攻勢を加えるために必要な水陸両用戦のための艦艇を強化する方針を次のように示しています。
「カーター大統領はわれわれの水陸両用艦隊を近代化する有効な計画を持っていなかったため、水陸両用部隊を輸送する能力は1980年代に大いに減少した。レーガン政権が計画する10隻の水陸両用艦艇は1990年代にわれわれの水陸両用輸送艦を脅かす戦力の陳腐化に対抗する上で良い出発点を与えるだろう」(Ibid.)
それだけでなく、米海軍が攻勢に出る能力を確保するため、レーガン政権として4隻の改修した戦艦を現役に復帰させ、4個の水上戦闘群の中核とすることも述べられています(Ibid.: I-30-I-31)。

米海軍が攻撃的能力を保持することができれば、ソ連海軍が有事に重要海域で防衛圏を構成しても、積極的に打破して制海権を獲得することが期待されました。

むすびにかえて
軍事的観点から見れば、レーガン政権は米海軍の態勢を大幅に拡充させ、ソ連に対する抑止をより盤石なものにしようとした意味で、その後の国際情勢の展開に大きな影響を与えたと評価できるでしょう。

レーガン政権がソ連との新冷戦に備えるに当たって、海軍の攻撃的能力を重点としたことは、戦略的観点から見て二つの意義があったと考えられます。

第一に、ヨーロッパ、中東、東アジアという広い地域に部隊を展開する際に必要な海上交通路を保全し、ソ連軍がどの正面で行動を起こしたとしても、迅速に所望の地点に確実に部隊が接近できるようにしたことです。

これは特に米国本土から見て部隊を展開しにくい中東地域への接近経路を確保することに寄与しました。

第二に、単に既存の海軍の能力を強化するのではなく、攻勢作戦を遂行するために必要な装備を重視したことにより、ソ連海軍がもし有事の序盤で防衛圏を構成したとしても、これに突入して制海権を奪取できる態勢を整えることができたことです。

ソ連の立場から見れば、これはただでさえ遠洋での戦闘能力が貧弱なソ連海軍の戦略的運用に制約を課すことであり、重要海域における制海権を固守するという米国の姿勢を明らかにすることにもなりました。

レーガン政権が通常戦力、特に攻撃的能力を持った海軍を増強することで、大陸に拠点を置きながら海洋進出を続けるソ連にバランシングを図ったことは、海洋戦略の研究における一つの参照点として知られるべきでしょう。

KT

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参考文献
U.S. Department of Defense. 1982. Department of Defense Annual Report to the Congress, Fiscal Year 1983, Washington, D.C.: Government Printing Office.

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