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2016年6月12日日曜日

変化する戦闘様相と諸兵科連合大隊の必要

諸兵科連合(combined arms maneuver)とは、任務を遂行するために、兵科・職種の区別を超えて味方の戦闘力を斉一的、同時的、総合的に発揮することをいいます。現在の自衛隊では諸職種連合と呼ばれますが、指揮、近接戦闘、火力戦闘、対空戦闘、戦闘支援、後方支援の機能を兼備して、各職種の部隊の能力を有機的に総合発揮することであると考えられています。

今回は、諸兵科連合部隊の理解を深めるため、米陸軍における諸兵科連合大隊(Combined Arms Battalion)の編成と運用について説明したいと思います。

諸兵科連合大隊の編成

諸兵科連合大隊の組織的特徴について米陸軍の教範では次のように述べられています。
「諸兵科連合大隊の指揮官は通常、大隊の任務を遂行するため、隷下の中隊を機甲部隊と歩兵部隊を混成した戦闘団として編制する。この中隊戦闘団は戦車、ブラッドレー戦闘車、歩兵、支援部隊を含む隷下部隊の相乗効果を増大させる効率性を持った組織である。これらの部隊は幅広い種類の能力を保持するが、多数の脆弱性を持ってもいる。諸兵科連合部隊として中隊戦闘団の効率的運用は戦闘団の隷下部隊の戦力を増大させ、その一方で各々の限界を最小限にするものである」(ATP 3-90.5: 1-9)
つまり、諸兵科連合大隊の指揮官は大隊長という地位にもかかわらず、それぞれの兵科の専門的領域を超えて複数の兵科の利害得失を組み合わせるという能力がなければなりません。米陸軍の諸兵科連合大隊の指揮官の場合、歩兵と戦車を連携させる方法について高度な運用が求められるのです。

諸兵科連合大隊の任務組織は極めて柔軟性が重視されており、大隊本部の下で機械化歩兵中隊と戦車中隊が置かれているため、任務に応じて柔軟に必要な戦闘力を発揮できるように考慮されています。
諸兵科連合大隊における歩兵中隊の編成。
中隊本部に機械化歩兵小隊3個で構成されている。(Ibid.: 1-10)
諸兵科連合大隊における戦車中隊の編成。
中隊本部に戦車小隊3個で編成されている。(Ibid.)
諸兵科連合大隊における本部中隊の編成。
大隊の斥候小隊、迫撃砲小隊、衛生小隊、通信班、狙撃班は本部中隊の下に置かれている。
(Ibid.: 1-11)
諸兵科連合大隊で特徴なのは、通常なら歩兵部隊の一部とされるべき迫撃砲が、本部中隊の指揮を直接受けることになっている点でしょう。これは機械化歩兵中隊と戦車中隊の両方に対して柔軟に火力支援を提供するための工夫の一つと言えます。

諸兵科連合部隊の戦闘要領

戦術の基本でもありますが、諸兵科連合大隊は部隊を警戒部隊、主隊、予備の三つに区分し、警戒部隊を主隊の前後左右に配置し、周囲を警戒させます。主隊には戦闘力の中核を担う部隊を充てますが、敵と接触するまでは戦闘展開しません。さらに主隊にも加えずに残した部隊は予備となり、これは敵の逆襲を撃退する目的や、戦機が訪れた際の戦果を拡張する目的で使用するための戦力です。

諸兵科連合部隊の運用の特徴とは、これら警戒部隊(前衛、側衛、後衛)、主隊、予備にそれぞれ異なる兵科の部隊を使用することができるということです。

諸兵科連合大隊の攻撃要領の一例。
敵の部隊(菱形の部隊符号)が占領する陣地に対して味方の戦車中隊1個が迫撃砲小隊1個等と連携して正面から射撃を加えつつ、機械化歩兵中隊2個が側面攻撃を行っている。
後方には予備として味方の戦車中隊が拘置されており、また戦闘地域の外部から敵が進入する事態を防ぐため、経路を警戒させてもいる。(Ibid.: 4-24)
ここで示した諸兵科連合大隊の攻撃要領の一例から、諸兵科連合部隊の運用の強さを見てみます。
この状況図を見ると左手に味方が、右手に味方が展開していますが、敵には2個の機械化歩兵小隊と1個戦車小隊があるだけです。したがって、優勢な戦力比を利用して正面攻撃を仕掛けることも不可能とまでは言えませんが、敵の正面に障害が構成されており、これに容易に接近することができません。

そのため諸兵科連合大隊は迫撃砲と戦車の火力を使用して敵を制圧し、その間に味方の機械化歩兵中隊2個を側面に移動させ、敵を二方向から攻撃する包囲の態勢に移行するという戦術が有効となります。
正面における味方の戦車小隊の動きで敵の戦車小隊を正面に引き付けることができれば、確実に味方の歩兵はより安全に側面から攻撃が可能となります。
さらに味方の予備にはまだ戦闘に使用していない戦車中隊が1個を温存しているため、敵の態勢が崩れた後でも徹底的に撃滅することが期待されるのです。

むすびにかえて
諸兵科連合大隊の編成は、複数の戦闘兵科の部隊が大隊の中に小規模ながら組み込まれている点に特徴があります。
そのため大隊長は大隊の任務遂行の際に、機甲部隊、歩兵部隊を戦闘団として編成し、自在に運用することが可能となります。これは大隊レベルにおける戦術の幅を大きくすることに寄与します。
同時にこれは大隊長に求められる能力も高くなることを意味します。機甲部隊と歩兵部隊の特性をよく理解し、双方の利点が欠点によって損なわれることがないように運用することが必要となってくるため、諸兵科連合に基づく戦術を駆使する能力が必要です。

このテーマを広く捉えると、現代における個々の地上戦闘の様相が以前よりも高い柔軟性を必要としていることが示唆されています。
大隊レベルの戦術で、これだけの諸兵科連合の努力が必要なのか、特定の兵科ごとに集中して運用した方が合理的ではないかという意見もあるでしょうが、現代では戦闘が同時に進行する多数の交戦の集合ではなくなっており、個々の交戦がより独立した性質を持つようになっていると考えられます。
この傾向が今後も続くのであれば、陸軍の組織は大規模な部隊を一つの構想の下に効率的に動かすための編成を見直し、現場で動く部隊の自主的な判断をより重視する編成へとますます変わっていくことになるでしょう。

KT

参考文献
U.S. Department of the Army. 2016. Army Techniques Publication 3-90.5, Combined Arms Battalion, Washington, D.C.: Government Printing Office.

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