最近人気の記事

2016年12月25日日曜日

軍事学を学びたい人のための文献案内(1)

表題の件について、読者の方々から何度か当方にご照会がありましたので、これから軍事学を学ぼうとする方々のための文献案内を作成いたしました。
ただし、本記事が想定する読者の範囲としては、大学生(学部生)から大学院生(修士課程)とし、古典の部類を除いては可能な限り洋書を避けている点をご了承下さい。

今回は第一弾ということで、まだ軍事学の知識がほとんどない人に向けた文献案内となっています。

軍事学の定義
軍事学(military science)には広範多岐に渡る研究領域が存在し、明確な定義を与えることは容易ではありません。さしあたりこの記事ではJordanの定義を紹介しておきたいと思います。
「軍事学とは、武力紛争における軍隊や武器の理論、応用、運用について体系化された知識として定義され、以下の領域が関係している。すなわち、統率(military leadership)軍事組織(military organization)、軍事教育・訓練(military education and training)、軍事史(military history)、軍事倫理(military ethics)、軍事教義(military doctrine)、戦略・作戦・戦術(strategy, operations, tactics)、軍事地理学(military geography)、軍事技術(military technology and equipment)である」(Jordan, 2013: 881)
ただし、この定義で紹介されている分野も軍事学の全体から見れば、ごく一部に過ぎません。
世界で最も普及している図書館分類法の一つ、デューイ十進分類法を見てみると、軍事学は「社会科学」の下位分類「行政」の区分が与えられていますが、軍事学に含まれる研究領域は全部で355項目に細分化されています(Ibid.)。
したがって、軍事学を学ぼうとする場合、どのような分野に関心があるかによって読むべき文献が異なってくるという点にご注意下さい。

この記事では軍事学の研究領域で特に中心的な位置を占めている戦略・作戦・戦術、つまり軍隊の運用に関する研究を中心としながら、学習に役立つ文献を紹介していきたいと思います。

軍事学の基礎知識を準備する一般向け書籍

日本では依然として軍事学の研究がそれほど活発であるとは言えません。しかし、元自衛官や軍事評論家、研究者の一部はこの問題を解決するために努力を積み重ねてきており、読者の関心や知識の程度に応じた啓蒙書が書かれています。
ただし、内容が時事評論的なものである等、軍事学を学び始めるための書籍としては問題がある場合も少なくありません。

ここでは内容が評論的ではなく、価格帯が手ごろで、軍事学を研究するための基礎知識を準備することに役立つと思われる書籍を紹介します。

黒野耐『「戦争学」概論』講談社、2005年
分野:軍事史、戦略、地政学
利点:近現代のさまざまな戦争史と関連する戦略思想について知ることができる
欠点:議論の構成がさほど体系的ではなく、近世以前の戦争史に関する記述が乏しい

松村劭『戦争学』文藝春秋、1997年
松村劭『新・戦争学』文藝春秋、2000年
分野:軍事史、戦略、戦術
利点:軍事学の基本概念を踏まえつつ、戦争史を概観し、各時代の戦略・戦術の特徴を理解できる
欠点:学問的な慎重さと公平さをやや欠いた断定的議論が散見される

鍛冶俊樹『戦争の常識』文藝春秋、2005年
分野:軍事行政、戦略、戦術
利点:軍事用語に馴染みがない人向けに、陸・海・空ごとの用語が簡単に解説されている
欠点:用語解説が趣旨であるため、軍事学上の学説や論点に関する記述はほとんどない

石津朋之編『名著で学ぶ戦争論』日本経済新聞出版社、2009年
分野:戦争論、戦略
利点:古代から現代にかけて軍事学に重要な貢献を果たした古典50冊の概要について学べる
欠点:軍事史、戦略思想の研究に偏っており、エアパワー、核戦略に関する古典の紹介が少ない

栗栖弘臣『安全保障概論』ブックビジネスアソシエイツ社、1997年
分野:戦争論、国際関係論、戦略
利点:取り扱っている学説、論点が戦争論、地政学、抑止論等の広範囲にまで及んでおり、代表的な軍事学者の学説(マキアヴェリ、クラウゼヴィッツ、ジョミニ等)も紹介されている
欠点:参考文献一覧だけでなく、本文の脚注もなく、文章の配列が体系的ではない(学術書籍としての扱いはできないため、啓蒙書として紹介)

むすびにかえて
今回紹介した文献はそれぞれに利点と欠点がありますが、それぞれの弱点を補強し合うような文献案内を心がけたつもりです。学習で特に重要な辞典類については次回の記事で説明する予定ですが、こうした入門書を読み進める段階で辞典を手に入れておくこともよいと思います。

これは軍事学の入門者に対する助言として一般的に言えることですが、軍事史の知識は持っていればいるほど研究で役立つので、最初は優先的に学習しておくことを強く推奨します(ここでの軍事史というのは、古代から現在までの戦争の歴史のことを指しています)。
現在の軍事学ではランチェスターやリチャードソンの軍事理論が極めて重要な研究領域を形成していますが、こうした理論的な分野の研究に挑戦するためにも、事前に軍事史の知識を十分に蓄えておくことが非常に重要となってきます。

次回の記事では、学術書籍として入門書に属する日本語文献を紹介したいと思います。

関連記事
軍事学を学びたい人のための文献案内(2)教科書

参考文献
Jordan, Kelly C., 2013. "Military Science," in G. Kurt Piehler, ed. Encyclopedia of Military Science, Los Angels: SAGE Reference, Volume, 2, pp. 880-885.

0 件のコメント:

コメントを投稿