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2017年4月16日日曜日

学説紹介 どうすれば士気を高めることができるか

Staff Sgt. Katherine Spessa. Feb. 17, 2017. 
士気(morale)は部隊に所属する各個人の心理状態を合わせたものであり、戦闘効率を高める重要な要因として位置付けられています。

統率力(リーダーシップ)を発揮して士気を高めることは、指揮官が任務を遂行する上で欠かすことができないといえます。

今回は、アメリカ海軍協会から刊行された統率論の参考書に沿って、部下の士気を高めるために必要な措置に関する解説を紹介したいと思います。

士気は小さいことの積み重ねである
Lance Cpl. Sarah Stegall. Jan. 4, 2017.  Basic Warrior Training is a 48 hour training evolution that covers land navigation.
古来から軍人は士気を高めることの重要性を認識し、統率者の使命はこれを高いレベルに保つことだと考えてきました。

というのも、士気が低下すれば部隊の能力は低下し、転属や退職を願い出る者、規律を乱して事故を起こす者、最悪の場合には命令に従わないなどの重大な事態にまで発展する危険があるためです。

軍隊の戦闘力への影響で見れば、物理的要因の3倍の効果を心理的要因が及ぼすとナポレオンが主張したことは決して誇張ではありませんでした(アメリカ海軍協会、226-7頁)。

しかし、部下の士気を高めることは決して簡単な仕事ではなく、日頃の地道な取り組みがなければ士気を改善することができないと文献でも述べられています。
「「士気とは小さいことの積み重ねである」といわれている。これほど、この重要な要因を正確に表したものはあるまい。なぜならば、人間に満足感を覚えせしめるすべてのものは士気を増強し、個人としての人間を煩わすすべてのものは士気を低下せしめるからである」(同上、227頁)
こうした士気の複雑性は、手っ取り早い改善策が存在しないことの裏返しでもあります。

士気とは究極的には各個人の心理状態に起因するものですので、生活状況、食事、住宅、規律、給与、職務内容のすべてが影響してきます(同上)。

こうした諸条件において、その個人が集団の一員として重要な働きをしているという自己認識が士気に繋がると考えられているのです。

士気を高めるために講ずべき処置
Cpl. Carlos Cruz Jr. July 2, 2016. A rifleman gets a promotion to sergeant at Cultana Training Area in Australia.
さらに文献では士気を高めたいと考える指揮官の参考とするために、次のような具体的な処置を紹介しています。
(1)士官は、部隊が食事の質と量の両面につき、可能な限り美味しい食事を取れるよう注意すること。
(2)絶えず部隊の保健衛生状態を点検すること。
(3)部下の威服や装備が十分であり、クリーニングが能率的であるように配慮すること。
(4)部下が適当な自由と休暇を取ることを確保すること
(5)部下が昇進、褒賞、特権について、公正な待遇を受けることを確保すること(同上、230頁)。
これらは士官が統率上、配慮すべき最小限度の処置となります。

さらに加えて、部下のそれぞれの特性に応じた対応も必要となります。先ほど述べた通り、士気を阻害する要因は多種多様であるため、画一的な対応ですべてが解決できるわけではないためです。

部隊検閲や個人面談などを通じて、指揮官は一人ひとりの部下が不満や不平を抱いていないか把握することになります。

例えば、自分の専門的能力にどれだけ自信を持っているのか、福利厚生や休暇に不満は持っていないのか、将来どのようなキャリアを目指しており、そのための教育訓練の機会は与えられているのか、職務の配分や論功行賞で公平な取り扱いを受けているのか、こうした情報を集めておくことが統率の実務においては非常に重要となります(同上、229頁)。

もし士気を阻害する要因を発見したならば、指揮官は速やかにそれを排除できるよう努力しなければなりません。

長期の退屈と過度な労働に要注意
Seaman Cole C. Pielop. Aug. 14, 2016. A sailor reunites with his family after returning home from a seven-month deployment.
より具体的な処置としては勤務時間の管理について厳重に注意する必要についても述べられています。

というのも、士気を破壊する典型的な要因は第一に長期の退屈、第二に過剰な労働であるとされているためです。

娯楽に溢れた現代社会で余暇を持て余すことは考えにくいことですが、余暇における活動の停滞は「過去において存在したし、将来再び起こりうることが考えられる。強制待機命令の時には「談話会」、コンテスト、トーナメント、プロジェクトや競争練習さえも行うことによって、多くの余暇のの善導もなされよう」と述べられています(同上、231頁)。

勤務外の時間を自己の充実のために有意義に過ごすことができれば、それは職務の遂行においても好ましい影響をもたらすと考えられています。

現代の組織でより深刻な士気の阻害要因はむしろ過度な労働と言えるでしょう。

与えられた時間で処理しきれないほどの仕事を抱え込み、家庭から離れている時間が長くなるほど士気は低下し、また能率も低下していきます。

このことについて文献では「遊びなしの仕事は人を愚鈍にする」と表現されています(同上)。

もし士気を低下させるこれら要因が実際に確認されるのであれば、そのことを上官に報告することは士官としての義務であると文献では述べられており、速やかに事態を緩和するための措置を考慮しなければなりません(同上)。

むすびにかえて
統率の事例や実践は座学で学ぶことが難しいということは事実です。

しかし、統率において常に基礎とすべき原則や考え方というものもあり、士気を改善するという問題に関しては部下の待遇に可能な限り配慮することであると一般化することができます。

特に時間管理に関しては士気に与える影響が特に大きいことから、普段から仕事と余暇のバランスがとれるように注意を払う責任が指揮官にはあります。

統率において最も大事なことは、そうした日頃からの部下への配慮を通じて、部下の信頼を着実に積み上げていくことに他なりません。

こうした信頼関係があるからこそ、生死を分ける場面であっても部下は指揮官についていこうとするのです。

KT

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参考文献
アメリカ海軍協会『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本』武田文男、野中郁次訳、日本生産性本部、1981年(新装版2009年)

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