最近人気の記事

2017年8月20日日曜日

学説紹介 必要な戦力を計算する方法―戦力比(force ratio)で作戦を立案するには―

一般に軍事行動では攻者が防者を撃破するために、およそ3倍の戦闘力を要するという経験則が言われています。

近年の研究で、この種の見解に妥当性がないとする説も出されていますが、こうした経験則は今でも軍隊の実務、特に幕僚の業務で広く使われています。

そこで今回は米軍の教範を踏まえ、各部隊行動において必要とされる戦力比について一般的に解説し、その意味について考察したいと思います。

作戦立案の基本は相対戦闘力の比較分析
作戦の立案に関するプロセスは、基本的に教範で標準化されたものがあり、戦力比の計算もその一部に位置付けられています。

米軍において戦力比の計算は軍事的意思決定過程(military decision-making process, MDP)、特に相対戦闘力の評価の一部に位置付けられています。

教範によれば、ある部隊の戦闘力を評価する場合、その部隊の2段階下位に当たる部隊の数に着目せよと述べられています(FM 6-0, C2: 9-18)。

例えば、作戦の基本単位となる師団レベルで彼我の戦闘力を比較する場合、分析単位は大隊であり、大隊を基本にして彼我の戦力を比較することになります(Ibid.)。

ここで敵と味方の戦力比を計算する段階に入るのですが、もちろんこの分析は定量分析だけで済むものではないことに注意する必要があります。

教範でも「戦闘力は有形の要素だけでなく、士気や訓練の水準といった無形の要素をも両方評価することを要する」と補足されています(Ibid.)。

攻者3倍の原則は最小限の戦力比を表したもの
戦闘力の定量分析の基本として、まず敵と味方を攻者と防者に分けます。これは部隊行動によって最小限必要な戦力比が違うためです。

教範でもこのことははっきりと指摘されており、詳細については次のように解説されています。
「多くの場合、計画立案者は歴史上の事例に基づく最小限の戦力比を目安として用いる。例えば、攻撃する部隊が防者に対して約3倍の戦闘力を有していても、歴史的に考えれば防者がそれを撃破できる可能性は50%を超えている。つまり、したがって、基本的に指揮官は約1:3の戦力比を伴っていれば、それぞれの接近経路で防御することは可能なのである」(Ibid.: 9-19-20)
誤解されやすい点ですが、攻者は防者の3倍の戦力を要するという経験則は、いわば最低限必要な戦力のことを表しているのであって、3倍の戦力があれば攻撃は成功するという意味とは解されていません。

つまり、確実な成功を期するとすれば、攻者は防者に対して戦力比が3倍以上になるように部隊を集中させなければならない、ということが言えるのですが、このような計算は敵が後退行動をとっている場合や、要塞に立てこもっている場合に変化します。

任務、態勢ごとで異なる最小限の戦力比
部隊行動は攻撃や防御だけではありません。周到に準備した要塞に立てこもって戦う場合もあれば、後退行動を行う場合などがあります。

教範ではこのような状況も想定した上で、任務、態勢ごとに必要な最小限の戦力比も次のように紹介しています。
・遅滞行動 味方1:敵6
・防御(周到な準備あり):味方1:敵3
・防御(周到な準備なし):味方1:敵2.5
・攻撃(敵に周到な準備あり):味方3:敵1
・攻撃(敵に周到な準備なし):味方2.5:敵1
・逆襲(敵の側面に対して):味方1:敵1(Ibid.: 9-20を参照)
これも実質的な戦闘力が互角になる最小限の戦力比であって、この比率を満たすことができたから成功が確実視されるというわけではありません。

全般の戦力比として防者が優位だと分かりますが、興味深いのは攻者が逆襲で側面から敵を攻めることができた場合であり、この場合だけは攻者に求められる戦力比が防者に対して1となっています。

これは味方の部隊が敵の側面を突くことができれば、防者が享受する戦力3倍の効果は失われることを意味しています。

こうした判断基準を適用すれば、さまざまな分析が可能となりますが、対反乱作戦についてはまったく異なった計算方法を適用すべきことに留意して下さい。

ゲリラや反乱軍を相手にする作戦の場合、その作戦地域に居住する人口が戦力の見積で重要なデータであり、おおむね1,000名の住民がいる地域に対して20名から25名程度の兵士が確保することが必要とされています(FM 3-24)。

むすびにかえて
今回は教範の内容を紹介するにとどめましたが、この記事で取り上げたテーマは奥が深く、オペレーションズ・リサーチ、軍事シミュレーション、ウォーゲーム(兵棋)とも深く関係しています。

例えば戦闘力に関しては火力指数を作成し、敵と味方の装備の価値が技術力に応じて異なることを戦力比の分析に反映させる方法も研究がなされており、戦闘による損害の予測でも成果が上がっています。

このような定量分析を乱用してはいけないことはすでに述べた通りですが、重大な局面で軍事行動を決めなければならない場合、一つの重要な論拠となり得ますし、戦争がどのようにして遂行されているのかを理解する上で興味深いのではないでしょうか。

KT

関連記事
論文紹介 WEI/WUVとは何か、いかに応用すべきか

参考文献
U.S. Department of the Army. 2014. FM 6-0, Commander and Staff Organization and Operations, U.S. Department of the Army.
U.S. Department of the Army. 2014. FM 3-24, Insurgencies and Countering Insurgencies, U.S. Department of the Army.

0 件のコメント:

コメントを投稿