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2017年9月7日木曜日

論文紹介 第5世代戦闘機F-35には、より強力な情報支援が必要

最近、米空軍で運用が始まったF-35ですが、この航空機については軍人、設計者、研究者の間で賛否両論あります。

今回は、こうした議論に関連して、米空軍の情報支援の態勢を組織的に改善すべきだと主張した研究を取り上げ、その要点を紹介します。

論文情報
Stephanie Anne Fraioli, "Intelligence Support for the F-35A Lightning II," Air & Space Power Journal, Vol. 30, No. 2(Summer 2016), pp. 106-9.

F-16とF-35はここが違う
この論文では著者はF-35が以前から運用されていたF-16と多くの点で機能が強化されていることを一般的に説明するところから議論を始まっています。

著者の説明によれば、F-35に応用されている「第五世代の技術は、〔敵の勢力によって〕拒否される空域を突破するために設計された」と説明されており、敵国領空を突破する能力が最大の特徴とされています(Fraioli 2016: 106)。

この機能は高度なステルス技術を応用することで可能になった説明されているのですが(Ibid.)、これは第五世代の戦闘機の機能の一部に過ぎないと著者は指摘し、F-35には高度な情報処理能力が付与されており、その違いは第四世代の戦闘機と明らかだとして次のように説明しています。
「F-16からF-35に至る進化は、固定電話からスマートフォンへの発展と結びつけることが可能であり、それは生活のあらゆる側面を自動化し、ソーシャル・メディアと電子メールの状況認識を絶えず保ち、銀行口座情報にいつでもアクセスすることを可能にする。第5世代航空機の作戦は時代遅れの機能を使用する必要がない。なぜなら、航空機が自動的に統合した情報資料を提供するためである。これは専門家の間でセンサー融合(sensor fusion)と呼ばれており、電磁気と赤外線スペクトルの領域で生み出された技術である」(Ibid.: 106-7)
つまり、第四世代の戦闘機だと操縦士はさまざまなセンサーを自分自身で操作する必要があったのですが、第五世代の戦闘機、つまりF-35の操縦士はそのような作業から完全に解放される、ということです。

この性能はF-35の高い戦闘効率に寄与するものであり、著者は高くこれを評価していますが、現時点でその能力を最大限に引き出す態勢が米空軍にはないとされています。これが著者によって提起されている課題なのです。

F-35を活用し切れない情報支援の現状
著者は基本的にF-35には大きな潜在力があると強調していますが、運用体制を整えることが大前提であり、特に米空軍においてF-35の機能をより発揮できるような情報支援の在り方を検討すべきと論じています。
「空軍の指揮官は、新たなプラットフォームを構築することと、戦闘情報を収集、分析、そしてそれを作戦指揮官に伝達する十分な能力を確保することが、直接的関係にあるということを理解しなければならない。(中略)情報戦においては、速度と精度が勝者を決定するのである」(Ibid.: 107)
要約すると、著者は今の米空軍の体制はF-35の優れた情報処理機能を活用できず、しかも今後も長期にわたって解決されないままになる危険性があるため、米空軍全体としてより真剣に問題に取り組むよう求めているのです(Ibid.)。

それほど著者が深刻に考えている理由はいくつかあります。
その一つとして第五世代戦闘機にインストールされているプログラムで使用されているデータ形式が、それ以外の装備にインストールされているプログラムのデータ形式と互換性がないということが挙げられます(Ibid.: 108)。

旧世代の戦闘機とやり取りするデータ形式に互換性がないことが、なぜそれほど深刻なのかというと、F-35に実装されているプログラムには空中戦における機動を制御する機能が含まれていることが関係しています。

つまり、F-35が戦闘空間で他の味方の航空機の位置を自動的に取得し続け、その情報に基づいて敵機に対して有利な距離や位置関係を瞬時に解析し、それに基づいて他のF-35との高度な戦術的な連携を実現することが目指されているのですが、味方に1機でも旧世代の戦闘機が含まれているとこの機能は使うことができなくなるということです(Ibid.)。

近接航空支援(close air support)でも問題があります。F-35ではリアルタイムで地上の映像を操縦士が受け取り、それに基づいて目標を攻撃することが可能になっているのですが、そもそも地上からそのような映像をリアルタイムで送信する能力が今の米空軍にはなく、機能を活かすことができないと指摘されています(Ibid.)。

戦闘機の性能だけが優秀でも軍事的に無意味

そもそも航空戦力の価値は航空機の性能だけで決まるものではないということはよく知られています。その航空機を支援する体制が空軍全体でどれだけ整っているかが重要であり、著者はF-35に関してはもっと米空軍に情報支援を構築する予算が必要だと主張しています(Ibid.: 108)。

さらに著者はこうした問題に取り組む上で、特に信号通信を重視することを提案しており、F-35の訓練でもこの方面に注力することを提案しています。
「情報の専門家は常に第5世代を支援する1N0(intelligence application)に注目しているが、しばしば次に示す空軍のコードは見落としている。すなわち、1N1A(地理情報分析geospatial intelligence analysis)、1N1B(目標選定targeting)、1N2A(信号分析signals analysis)である。恐らく画像情報と信号情報は1N0の支援と同じか、それ以上に重要である。これらの機体から発せられる特定の情報資料は可能な限り素早く解析され、かつ提示されなければならない。これらの領域はいずれもF-35の開発に役立つものであるし、これら専門コードの初歩的訓練は正式な訓練に組み込まれるべきである」(Ibid.: 109)
F-35の問題に関する議論はこれまでもありましたし、今後も続くでしょうが、この研究は情報支援の観点からそうした議論に一石を投じたものだと言えるでしょう。

むすびにかえて
著者は米空軍の現役士官としてF-35の情報支援に関する任務に取り組んできた経歴を持っており、この論文で示された考察も実務の経験に基づくものと推察されます。

こうした主張が今後の米空軍でどのように受け止められるのか、情報支援の体制強化がどこまで進むのかなどの点は、米国の国防政策、そして米空軍のF-35部隊の戦闘力を評価する上で注目すべき点だと思います。

航空自衛隊においてもF-35の導入が進んでいることを考慮すれば、こうした論点があることは国民としても知っておくべきだと思いますし、我が国の航空戦力をどのように整備すべきかを考察する参考にもなると思います。

KT