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2017年9月23日土曜日

論文紹介 北朝鮮の核開発を中国の目線で考えてみる

北朝鮮が核開発をこれほど長期間にわたって続けてきた動機については、さまざまな議論があります。米国に対する抑止力として核兵器を持とうとしているという議論もその一つです。
しかし、北朝鮮の核政策を理解するためには、軍事的、外交的な観点だけでなく、政治的、経済的観点からも多面的に考察する必要もあります。

今回は、中朝関係を中心に北朝鮮の核政策を考察した論文を取り上げ、その要点を紹介したいと思います。

論文情報
Thomas Plant and Ben Thode, "China, North Korea and the Spread of Nuclear Weapons," Survival, 55.2 (2013): 61-80.

北朝鮮と中国を結び付ける外交的利害
中朝国境を一部構成する鴨緑江に架橋された中朝友誼橋。ここから軍事境界線に至る北朝鮮の領土は中国にとって在韓米軍をはじめとする米国の脅威を緩和する緩衝地帯にもなっている。
まず著者らは中国にとって朝鮮半島がどれほど大きな戦略的意義を持っているかを考察するところから議論を始めています。

もし北朝鮮の体制崩壊が起これば、中朝国境には多くの難民が押し寄せる危険があるだけでなく、韓国が主導する形で朝鮮半島が統一されれば、在韓米軍の兵力が北朝鮮に進駐し、それが中国に対する脅威になる可能性も考えられます(Plant and Thode 2013: 61-2)。

これは中国の安全保障にとって受け入れがたい事態です。だからこそ、中国はこれまで北朝鮮との貿易、投資を通じて経済連携を強化し、北朝鮮が崩壊することがないようにさまざまな政策を実施してきました。

著者らの言葉を借りると中朝関係は「北朝鮮は存続のために中国を必要とし、中国は北朝鮮が崩壊しないことを必要とする」とも形容できるでしょう(Ibid.: 62)。
こうした中国の思惑で保護を受けることができた北朝鮮ですが、北朝鮮は必ずしも中国の支援だけで体制崩壊を食い止めきたわけでもありませんでした。

というのも、北朝鮮はその国力の制約の中で政権運営に必要な財源を確保するため、さまざまな取り組みを進めてきたためです。核開発もその一つとして位置付けられてきました。

北朝鮮が核開発を行う経済的理由
北朝鮮は冷戦期から核開発に乗り出しており、長期計画で研究開発を推進してきた。1980年代に原子炉の建設と運用を開始し、1990年代に使用済み核燃料の再処理施設の建設に移行し、2000年代にはウラン濃縮の技術の開発に入っていた。この間に北朝鮮は米中露韓日を含めた核問題の協議に参加し、一時的に開発プロセスを停止した時期もあるが、結果として交渉はいずれも失敗に終わっている。
教科書的な勢力均衡理論で考えるならば、中国の支援を得ている北朝鮮は、国防のために必ずしも脅威に対抗できる規模の軍備を必要としません。
なぜなら、対外的な脅威が及んだとしても、中国の軍事的介入を期待することができると考えられるためです。

それにもかかわらず、北朝鮮が自国の防衛力をさらに強化しようとすることについて、著者らは北朝鮮には国防以外にも核開発を行っている可能性があると指摘しており、それは武器輸出による外貨の獲得であるとの仮説を示しています。
「北朝鮮の弾道ミサイル拡散と通常兵器の販売に関する報告によれば、リビアの指導者カダフィ(Muammar Gadhafi)が2003年に秘密裡に進めていた核開発計画を放棄することを決定する前から、数十年にわたって拡大を続けてきたとされている」(Ibid.: 67)
「北朝鮮がリビアに核物質を提供したことが発覚した2004年以降も、北朝鮮はシリアとの核関連技術協力を継続している。この事件に対する懲罰的措置が実施されていないことからも、北朝鮮の神経の図太さがうかがわれる」(Ibid.: 68)
すでに武器輸出国として北朝鮮には一定の販売実績があり、品揃えに関しても高濃縮ウランから反射炉技術など他国では手に入らない分、市場における競争優位があると言えます。(果たして国際社会に取引に応じる顧客が実際にいるかどうかは、また別の問題ですが)

著者らの議論に従うと、北朝鮮にとって核開発を放棄することは、外貨獲得のための手段となる有力商品の製造を放棄するという意味合いがあり、これまでの研究開発に投資してきた経費を回収できなくなります。

北朝鮮の核開発を中国はどう見ているか
朝鮮戦争で中国は北朝鮮と事実上の同盟国として米韓に対し戦った。しかし、著者らは中国と北朝鮮の利害は必ずしも一致しているわけではなく、核開発において中国は北朝鮮の動向について懸念を抱いていると判断している。その一方で、体制変更を含めて朝鮮半島の現状を大幅に変更することには大きなリスクがあるため、これまでも中国としては北朝鮮に対する圧力の強化で慎重な立場をとってきた。
この論文で特に興味深いのは、こうした北朝鮮の核開発の思惑とそれに関連する貿易事業について中国がどのように判断しているのかを考察している箇所です。

そもそも、北朝鮮が核関連技術を諸外国に売却して利益を得ていることは、長期的視点に立ってみると中国にとって決して好ましいことではありません。
この観点から見ると、中国が北朝鮮を経済的に支援するのは、現在保有する核物質や武器を海外に輸出することを防いでいる側面さえあります。
つまり、中国の政策は核拡散の防止という点に限定すると、米国と利害が一致している箇所もあるということです。

しかし、この問題の本質は中国が米国の動きを予測できず、北朝鮮に対する具体的な行動に踏み切ることができない状況にある、と著者らは考えています。

もし北朝鮮の体制変動を含めた緊急事態に対処するとなれば、中国としては利害関係がある米国、韓国と事前に協議しておく必要が生じます。
しかし、中国にとって米国は決して「信用に値する相手ではない」ために、具体的な作戦行動に関する情報を共有できる外交環境ではなく、中国の政策決定者にとって緊急事態の際のリスクを見積もることが非常に難しくなっていると著者らは指摘しています(Ibid.: 72)。
「米国、韓国、中国はいずれも体制崩壊の際には核物質を確保する必要があると考えているものの、中国は米国や韓国とそのようなシナリオ、あるいは緊急事態の計画について協議することを拒否している。この手詰まりの原因としてよく指摘されるのは、同盟国との仲間意識を表す必要があるということ、すでに手の負えない隣国とさらに関係が悪化することを望まないこと、そして中国にとって米国が信頼できないことである」(Ibid.)
結果として、中国にとって現実的な措置は限定的、場当たり的な措置となってしまいます。

その措置には北朝鮮に経済的手段で圧力をかけることも含まれていますが、これは北朝鮮が中国に対する経済的依存を減らすことに繋がり、核物質や核施設の輸出を含めた外貨獲得を促進させ、コントロールしにくくなる側面もあります(Ibid.: 73)。

このようなリスクを総合して考えると、中国としては北朝鮮を経済的に支え続けた方が、米国と一緒に北朝鮮の非核化を推進するよりも、全般の情勢から考えて中国の利益に適うという判断になるでしょう。

むすびにかえて
北朝鮮の問題を考える際には、つい日本、米国の立場に立ってしまいますが、中国の立場から北朝鮮の問題を理解することも、大変重要なことです。
米国がその強大な軍事力で北朝鮮に圧力を加え、非核化を強制すればよいという単純な問題ではなく、北朝鮮の背後にいる中国と朝鮮半島の「望ましい状態」についてどのような合意が形成可能なのかを考えなければならないのです。

著者らはこの論文で中国が米国、韓国と情報交換から始め、危機的状況での対応について協議するための準備を進めることが問題解決にとって必要と述べていますが、米中関係から判断してそのような外交はなかなか現実には難しいことは率直に認めています(Ibid.: 74)。

もし米国が中国の同意も得ずに北朝鮮に対して軍事行動を起こすなら、米中間で軍事的緊張が高まることは必至でしょう。
もし両国が衝突に至った場合に予想される物的、人的犠牲が、北朝鮮の非核化という目的から考えて許容可能な範囲に収まらないのであれば、米国は北朝鮮に対して戦略的に譲歩する可能性は十分に考えられます。

どのような展開になるにしても、この北朝鮮の核開発の問題を過度に単純化することなく、背後関係も含めて分析し、日本の政策が適切なのかどうかを絶えず監視しておくことは重要なことだと思います。

KT

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