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2017年9月1日金曜日

事例研究 米軍の「突入作戦のための統合構想(JCEO)」とは

米国防総省には内部の人間でないと通用しない専門用語がたくさんあるのですが、「突入作戦のための統合作戦(Joint Concept for Entry Operation 以下、JCEO)」もその一つかもしれません。

これは旧エアシー・バトル(現在JAM-GCに名称変更)に並ぶ米軍の中心的な作戦構想として策定された構想ですが、エアシー・バトルに比べて議論されることがあまりありません。

しかし、その内容は米軍の世界戦略、特に勢力投射能力の確保に深くかかわっており、米軍の軍事上の課題を理解する上でも理解する必要があります。

今回は、統合参謀本部から出された教範の内容に沿って、JCEOの内容について簡単に紹介し、米軍にとってどのような重要性があるのかを考察したいと思います。

JCEOの構想とその特徴
まずJCEOの基本概念である突入作戦(entry operation)とは何のことなのでしょうか。
米軍の定義では次のように定められています。
「突入作戦:定められた任務を遂行するために、海上から、もしくは空中を通じて外国の領土に対し、部隊を投入すると同時に展開すること」(Joint Chiefs Of Staff 2014: 2)
こうした突入作戦を実施する狙いはその時々の状況によってさまざまです。

例えば海洋や宇宙といったグローバル・コモンズ(global commons)と呼ばれる領域での接近・機動に対する脅威を撃破すること、限定的な期間にわたる任務を遂行すること、さらには拠点を確立することが目的として考察されており、すべての場合において外国の領域に侵攻することが一貫して目指されています(Ibid.)。

したがって、JCEOは突入作戦を遂行する方法を示した作戦構想であり、特に陸海空各作戦能力を組み合わせることを重視しています。

注目すべき点は、米軍がこの作戦構想を接近阻止・領域拒否(A2/AD)への対応として検討しているということであり、より厳密には敵国領土のすぐ近くで受ける領域拒否の問題への対応策として位置付けられていることです(Ibid.: 2)。

しかし、軍事的観点から見て、このような作戦が果たして実行可能かどうかについては、疑問が持たれるところです。

第一次世界大戦の事例を参考に
1918年4月23日に実施されたZ-O作戦の要図、イギリスが海上から強襲を実施し、ドイツ海軍の基地機能を喪失させようとしていることが伺える
米軍がこうした突入作戦の研究で参照している歴史上の事例に1918年4月23日に実施された第一次世界大戦のイギリスの特殊作戦があります。

当時、イギリスは大胆にもドイツの海軍基地を強襲することによって、海上交通路の安全を確保しようとしていたのです。
「Z-O作戦は、イギリスの海軍、海兵隊、空軍によって実施された直接行動による襲撃であり、第一次世界大戦の最中1918年の春にベルギーのZeebruggeとOstendの敵港湾施設を利用不可能にすることを意図していた。そのために、海兵隊は地上攻撃を、狭隘な箇所で「ブロック船舶(block ships)」を計画的に沈没させ、ドイツの潜水艦や哨戒艇がイギリス海峡に接近することや、イギリスの外洋航路を脅かすことができなくなるように、爆発物を積載した潜水艦を重要な埠頭の下で爆発させた」(Ibid.: 3)
この事例の詳細についてはPrince(2012)やPitt(2003)の中でも説明されていますが、戦果は限定的なものにとどまっており、作戦として完全な成功からとはいえないものでした。

そのことは米軍においても承知の上ですが、それでもこうした作戦が戦力投射能力において必要であると考えられています。

この事例以外にも第二次世界大戦でのノルウェーで実施された特殊作戦の事例、1989年に実施されたパナマ侵攻の事例、1993年のソマリアでの人道支援なども取り上げた上で、突入作戦という作戦構想について具体的な検討を行っています(Joint Chiefs Of Staff 2014: 3-5)。

こうした前例を踏まえて研究を行うことにより、JCEOの内容をさらに今後発展させる狙いがあるものと推察することができます。

JCEOの軍事的リスク
敵国が支配する海岸、それも最も警備が厳重な海軍基地に対して襲撃を行うことのリスクは容易に想像がつきます。

もし序盤に完全な奇襲が成功したとしても、敵が混乱から立ち直って戦闘が本格化してしまうと、もはや現地の部隊を外洋に離脱させることが不可能になる危険もあります。

したがって、極めて小規模な特殊作戦部隊による強襲で限定的な戦果を狙うか、または大規模な着上陸侵攻によって一挙に橋頭保を確保するか、いずれかの方法でなければ作戦として成り立たない可能性があります。

米軍としてもJCEOにリスクがあることを率直に認めており、そのリスクを列挙しています。

リスクには、例えば作戦の前提となる敵の領域拒否の手段を無力化することには技術的な問題も含まれており、突入作戦の構想そのものが非現実的になる可能性があるとも指摘されています(Ibid.: 34)。

また、地上部隊を敵の領土に着上陸させる前に、敵の部隊を十分に制圧しておくことが必要であり、この制圧のために重要となるのが敵の部隊や装備がどこにあるのかを探知する情報能力も重要です(Ibid.)。

むすびにかえて
しかし、こうした困難が山積しているからといって、米軍として突入作戦の構想それ自体を放棄するわけにもいきません。成功させるための方法は今後も検討されると思われます。

なぜなら、世界の覇権を米国が握り続ける上で、米軍の勢力投射能力を高い水準に維持することが戦略的に極めて重要なことだからです。

第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦、朝鮮戦争の仁川上陸作戦など、米国がその対外政策を遂行する上で海上からの着上陸侵攻能力は決定的な役割を果たしてきました。

もし米軍が海上を支配する能力しか持たず、海上から陸上に軍隊を送り込む能力がないと認識されれば、世界で米国の軍事的プレゼンスは大きく後退するでしょう。

KT

参考文献
Joint Chiefs Of Staff, Joint Concept for Entry Operations (Washington:
U.S. Government Printing Office, 2014).(http://dtic.mil/doctrine/concepts/joint_concepts/jceo.pdf)
Stephen Prince. 2012. The Blocking of Zeebrugge, Operation Z-O, Osprey Publishing.
Barrie Pitt. 2003. Zeebrugge: Eleven VCs Before Breakfast,  Cassell Military Paperbacks.