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2018年1月19日金曜日

学説紹介 航空作戦でも予備は最後まで残しておけ―バトル・オブ・ブリテンの教訓―

航空作戦の研究において予備(reserve)の運用が持つ重要性が軽視される傾向にあるということは、以前から言われています。
敵の航空部隊の攻撃を待ち受ける防勢の場合、予備を確保した上でどこまで攻撃に持ち堪えるべきかは勝敗を分ける重要な問題なのですが、必ずしも十分に議論されていません。

今回は、そんな中でワーデン(John Warden III)が航空作戦における予備の重要性を指摘した議論を紹介し、その意味を考えてみたいと思います。

なぜ航空作戦で予備が重要なのか

ワーデンは航空作戦に関する議論で予備の問題に注目している研究者がごくわずかであることを指摘し、これが誤りであり、より真剣に考察する必要があると主張しています(Warden 1988: 115)。
「クラウゼヴィッツは戦争の霧、戦争の摩擦、そして戦争の不確実性について語っている。完璧な活動を妨げるこれらの要因を除去することは不可能だが、予備は少なくとも2通りの方法でその悪影響を緩和することができる。まず、予備は敵の錯誤や失敗を利用することを可能にする。(中略)他方で、予備は自身の間違いを利用しようとする敵に対して投入することができる」(Ibid.: 116)
いわば、予備は刻々と変化する状況で、絶好のタイミングが訪れた時にはじめて投入する戦力であると同時に、危機的な状況を切り抜けるための戦力でもあり、いずれにおいても戦局を大きく動かす役割があるということです。

この予備の重要性が示された事例として、ワーデンは第二次世界大戦におけるバトル・オブ・ブリテンの事例を取り上げています。

バトル・オブ・ブリテンの概要

1940年8月、第二次世界大戦は重要な局面に差し掛かっていました。
ドイツは5月から6月までの作戦でオランダ、ベルギー、ルクセンブルクを相次いで支配下に置くだけでなく、フランスも打倒し、西ヨーロッパでドイツと戦い続けるのがイギリスだけになっていたためです。

バトル・オブ・ブリテン(battle of Britain)はこうした国際情勢の中で実施された英本土航空決戦であり、時期区分には諸説ありますが、8月から10月まで継続したとされています。
ドイツ空軍は4週間でイギリス空軍を撃滅する計画を立案し、爆撃機1200機、単発戦闘機700機、双発戦闘機250機、合計2150機を投入しました。全体で見れば、これはイギリス空軍の戦力規模のおおよそ2倍でした(Ibid.: 120)。

しかし、イギリス空軍はその劣勢な戦力の3分の1を予備に回すことにします(Ibid.)。ただでさえ劣勢な状況で、さらに戦力の一部を使用しないことを決めたことは、一見すると戦力集中の原則に反するようですが、当時のイギリス空軍には考えがありました。

8月から9月6日までにイギリス空軍の基地施設や通信施設はドイツ空軍に破壊され、操縦士や機体の損耗も深刻になっていきました。
9月7日からドイツはイギリス戦闘機部隊の撃滅が十分に済んだと判断し、攻撃を都市部に対する爆撃に切り替え始めます(Ibid.: 121)。ここが勝敗の分かれ目となりました。
「しかし、彼らはコインの反対側を無視していた。ドイツ空軍がロンドンに集中することで、戦闘機に対する飛行場への圧力が減少し、より重要なことに、イギリス空軍がドイツ空軍に対してより効率的に戦力を集中することが可能となった」(Ibid.: 121)
イギリス空軍はここで予備を投入しました。9月15日、イギリス空軍はドイツ空軍の大規模な攻撃を察知し、予備とされた6個の飛行隊を全て使用して、ドイツ空軍に甚大な損害を与えることに成功します(Ibid: 121-2)。

むすびにかえて

ヒトラーは9月17日、イギリス本土上陸作戦の無期延期を決めました。
その後もロンドン、コベントリ、リバプール、マンチェスター、プリマス、サウサンプトンなどの都市に対して効果の薄い夜間爆撃は続きますが、やがて独ソ戦に備えるためにドイツ空軍は戦力を東方へと移動させ、イギリスは危機を脱したのです。

数的劣勢なイギリス空軍がドイツ空軍の攻勢に持ち堪えることができたのは、決定的な瞬間まで戦力の一部を残しておくことができたためだとワーデンは主張しています。
空軍で予備という考え方があまり一般的ではないことはワーデンも認めていますが、やはり戦争の霧、摩擦、不確実性の影響を考慮するならば、空軍にとって重要な研究テーマと考えなければならないというのがワーデンの立場です。

ワーデンの議論を踏まえれば、防勢の立場で航空作戦を遂行する場合、航空戦力の一部を予備として温存しておくために、あえて敵の攻撃で被害が出ることを受け入れなければならないこともあると覚悟しておかなければならないでしょう。

KT

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参考文献

John Warden, The Air Campaign: Planning for Combat, National Defense University Press, 1988.