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2018年1月27日土曜日

学説紹介 リベラリズムにおける軍事力の位置付け―コヘインとナイの学説を中心に―

国際政治学では代表的な理論として、リアリズムとリベラリズムという二つの異なる理論があります。
安全保障学の研究はリアリズムに依拠した学説も多いのですが、リベラリズムに依拠する研究も決して少数派というわけではありません。

今回は、リベラリズムについて簡単に紹介し、そこで軍事力がどのように位置付けられているのかを紹介したいと思います。

リベラリズムとは何か


諸説あるところですが、一般にリアリズムは国際社会で戦争が引き起こされる要因を各国の勢力関係の不均衡として考える学説です。
つまり、環境的な要因に基づいて各国の対外政策を説明するのに適した理論と言えます。

それに対してリベラリズムは国内政治上の要因、つまり各国の内部で起きる政策決定のメカニズムの結果として考える傾向にあります。
これは各国の政治体制、社会状況を考慮に入れることを重視している理論と言えるでしょう。貿易を通じて経済的相互依存が深まれば、戦争のリスクが低下するという考え方も、この理論から導かれます。

安全保障学の学説史をどのように区切るかにもよりますが、リベラリズムがこの分野で本格的に参照され始めるのは基本的に1970年代以降です。
当時、貿易のグローバル化、国際金融秩序の動揺、エネルギー問題の顕在化などが国家の防衛に影響を及ぼすことが認識されるようになっていました。

人々は軍備や同盟だけでなく、より広い視点から安全保障を捉え直すようになり、そのことが国際政治学におけるリベラリズムの地位を高めることに繋がりました。

リベラリズムにおける安全保障

ロバート・コヘイン(Robert Owen Keohane, 1941-現在)
米国の政治学者、国際関係論でネオリベラリズムの理論を唱えたことで知られる。
リベラリズムの研究で名をはせた米国の政治学者にジョセフ・ナイとロバート・コヘインがいます。彼らの共著『パワーと相互依存』(1977)は今でもよく知られているリベラリズムの文献であり、日本でも最近になって翻訳されました。

彼らはリアリズムが抱く安全保障の考え方は現代の世界情勢に適合しない部分があるのではないかと考え、次のように述べています。
「安全保障上の冷戦的な脅威感が緩むにつれて、対外的な経済競争と対内的な配分をめぐる対立が高まっていった。多様で矛盾することがしばしばある関与の形態が、(国家安全保障という)唯一のレトリックの傘の中に雨宿りをしていたので、「国家安全保障」という概念の知的曖昧性は益々顕著になった」(コヘイン、ナイ、8頁)
冷戦期には核兵器の登場などを受けて、軍事力の役割についても認識が変化していました。通貨や貿易を通じて国家間の相互依存が強化されたことも、安全保障に対する従来の視座を見直す契機となっていたのです。

コヘインとナイは「勢力均衡と国家安全保障というイメージが、経済的・静態的相互依存関係という問題を分析するのにうまく適用されることは少ない」とも述べています(同上、9頁)。

リベラリズムにおける軍事力

以上の議論を踏まえると、リベラリズムはリアリズムよりも軍事力の意義を相対化して考える傾向にあることが分かります。

つまり、軍事力の効果は犠牲が大きいうえに不確実であり、また国際政治上の争点は防衛だけでなく貿易や金融などにも拡大しているので、軍事行動にはより慎重にならざるを得なくなっているということです。

こうした状況をもたらしたのは核兵器によるところが大きいと指摘されており、「核兵器の破壊力のために、核保有国への攻撃は危険なものとなった」とナイとコヘインは論じています(同上、37頁)。

それにもかかわらず、コヘインとナイは軍事力が重要性を失ったとか、軍備が不要になったと論じているのだと誤解してはいけません。

そもそも、国際社会で相互依存の関係がさほど強くない状況であれば、彼らはリベラリズムの前提と一致しないことを認めており、また争点の領域が貿易や通貨といった経済の領域から、国民の生命と財産がかかわる軍事の領域に移行すれば、リアリズムは依然として妥当性を持っていると述べているためです(同上、38頁)。

むすびにかえて

結局、リベラリズムはあくまでもリアリズムが想定しない相互依存関係を前提にした国際政治学の理論であって、軍事的争点が前面に出てくる場合にはリアリズムのアプローチを適用する必要があるのです。
「世界政治についてのリアリストの説明の仕方に取って代わる説明の仕方を発展させようとする我々の目的は、(ある種の近代主義者がするように)極端な単純化を別の単純化と置き換えるのではなく、世界政治に関して時限と領域を明確に区別するアプローチを発展させることである」(同上)
この記述からも、リアリズムとリベラリズムは状況により使い分けられるべき理論であるということが分かるでしょう。
国家安全保障政策を考える際に、軍事力の運用を主体に対外政策を考えるべき状況もあれば、経済力の運用を主体にすべき状況もあり、どちらも重要であるということを改めて理解することが重要だと思います。

KT

参考文献

Robert O. Keohane and Joseph S. Nye, Power and Interdependence, 3rd edition, (1977)2011.(邦訳、ロバート・O・コヘイン、ジョセフ・S・ナイ『パワーと相互依存』滝田賢治監訳、ミネルヴァ書房、2012年)