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2018年1月8日月曜日

論文紹介 中国海軍の機雷は重大な脅威となり得る

軍事用語では、機雷敷設と機雷掃海をまとめて機雷戦(mine warfare)といいます。
つまり、機雷戦とは機雷を使おうとする側と、それを除去しようとする側との攻防であり、一見すると地味な活動と思われるかもしれません。
しかし、大型艦艇でも一撃で行動不能にできる大きな威力を機雷が持っていることを考えれば、これを軽視すべきではありません。

今回は機雷戦について理解を深めるため、最近の中国海軍が機雷戦に関する能力をどれほど改善させているのかを調べた研究を取り上げ、その内容の一部を紹介したいと思います。

文献情報
Andrew S. Erickson, Lyle J. Goldstein, and William S. Murray. 2009. "Chinese Mine Warfare: A PLA Navy Assasin's Mace Capability," China Maritime Studies, No. 3, Naval War College.(河村雅美訳『中国の機雷戦 人民解放軍海軍の「暗殺者の戦棍」能力』海上自衛隊掃海隊群、2010年)

中国海軍が持つ膨大かつ多様な機雷
米海軍の掃海艦ガーディアン。2013年の座礁事故で除籍解体された。
掃海艦とは、基本的に着上陸作戦などに先立って水深が浅い海域で掃海を行う艦艇であり、磁性を最小限にするなどの必要から船体の構造と素材ともに他の艦艇の設計と大きく異なっている。
この研究成果が取り組んでいるのは、中国海軍が機雷戦を非常に重視する傾向にあることを明らかにすることです。
著者らの分析を読むと、中国海軍の関係者は、海上作戦を遂行する上で、開発や運用が比較的やさしい機雷戦の能力を重視するようになっていることが指摘されています。

しかし、軍事的観点から中国海軍の機雷をどのような脅威と考えればよいのでしょうか。
まず、著者らは中国が現在保有する機雷は公表されていないものだけでも5万-10万個の規模であると報告しており、さらにより多くの機雷を隠し持っている可能性があるとも述べています(邦訳、10頁)。

中国海軍が保有する機雷は、その種類が多いことも重要な特徴であり、触発、磁気、音響、水圧、複合感応機雷、管制機雷、ロケット上昇機雷、自走機雷など、その種類は30種以上であると報告されています(邦訳、11頁、また詳細は12-15頁を参照)。

これほどの種類があるとなれば、それだけ機雷防御や機雷除去に要する装備や技術も異なってきます。機雷の脅威を解決する簡単な方法というものは存在していないのです。

抜本的な対策に限界がある以上、中国の機雷は特に大型艦艇にとって重大な脅威となる危険があることを前提として考えるべきでしょう。

例えば、中国が持つ浮遊機雷のPiao-1は敷設深度2-25m、運用寿命2年、危害半径10mとされており、漂流深度を一度設定して漂流させれば、海流に沿って移動するため位置の特定は難しくなります(同上、11頁)。

これは生産価格が安いということもあるため、大量に使用すれば海上交通を長期にわたって妨害する危険があり、大型艦艇の進出はそれだけ難しくなるかもしれません。

中国潜水艦による機雷敷設に警戒すべき

中国の潜水艦に搭載されるPMK-2推進機雷(同上、26頁)
中国海軍の機雷に対処する際に、最も確実かつ安全な方法は、機雷敷設を行う艦艇を攻撃することです。
しかし、中国人はこの問題についても周到に研究していることを著者らは指摘しています。

分析によれば、中国海軍は機雷を敷設するための手段として、水上艦艇よりもむしろ潜水艦を重視している可能性が高いと見られています(同上、26頁)。

実際、中国側の研究では、敵に支配された海域であっても潜水艦であれば、攻勢的な機雷敷設が可能であり、長期にわたって海上交通路に脅威を与えることができることが議論されてきました(同上)。
「様々な機雷敷設プラットフォームの利点及び欠点を体系的に分析した結果、中国のアナリスト達は、潜水艦による機雷敷設が攻勢的な機雷敷設任務、特に長い射程距離の場合に最適であると結論付けたようである。機雷敷設に潜水艦を用いる利点は、そのステルス性、その正確な機雷敷設能力並びに難しい目標に対しても貫徹できるその能力(恐らく自走機雷の使用による)を含んでいる。加えて、潜水艦敷設の精度及び効率が高いことから、より少ない機雷敷設で高い効果を可能とすることに気付いた」(同上、27頁)
ここで注目すべきは、中国海軍が海上優勢を敵に奪われた状態で戦うことを想定しているということでしょう。

相対的な戦闘力で劣勢な状況に置かれている中国海軍として、敵国海軍に対抗するために機雷戦が位置付けられており、その戦術は極めて攻撃的な志向を持っていると考えられます。
もちろん、地形の関係で潜水艦が進入できない海域もあり、その場合は航空機によって機雷を敷設する必要があるでしょう。

むすびにかえて

米中両国の海上戦力を比較すれば、依然として米国の方が圧倒的に優勢だと言えますが、それはあくまでも米海軍の機動部隊が東シナ海や南シナ海といった作戦地域に進出できた場合の話です。

中国は当然そうした米国の作戦を阻止する作戦計画を準備しているでしょうし、先ほど述べたように攻勢的機雷戦がその一部として組み込まれている可能性は高いと考えるべきでしょう。

日本の防衛を考えた場合、こうした中国海軍の行動について認識を深め、検討しておくことが必要になると思います。

海自に必要な掃海能力を点検することも含めて、抜本的な対策が難しい機雷の脅威にどう向き合うのかを考えなければなりません。

こうした議論を日本でさらに深める上で、この研究は恰好の資料になると思います。

KT

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