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2017年8月18日金曜日

論文紹介 暴動鎮圧にも戦術がある

本来なら暴動は警察学の研究テーマであって、軍事学の研究テーマにはそぐわないと感じられる読者もいるかもしれません。

しかし、世界の発展途上国で実施されている不正規戦争の事例を調べてみると、暴動がゲリラ戦を補完する戦術として利用されることもあり、一概に暴動は警察力で鎮圧すればよいと片づけるわけにはいかない場合があります。
これは米軍のように外国で占領地の治安維持に当たる場合があれば、なおさらです。

今回は、暴動を鎮圧する方法を戦術の観点から考察した論文を取り上げ、その要点を紹介したいと思います。

論文情報
Stanton, Martin N. "Riot Control for the 1990s," Infantry, Vol. 86, No. 1(January-February 1996), pp. 22-9.

不正規戦争の一環としての暴動
この研究の目的は、米軍の暴動鎮圧ドクトリンを見直すことにあるのですが、著者は特に発展途上国に進駐した米軍部隊が暴徒の対処に当たるという状況を想定していました。

この研究が発表された当時は1990年代、つまりポスト冷戦の時代であり、発展途上国に米軍部隊が派遣され、現地の暴動を鎮圧する任務を数多くこなさなければなりませんでした(Stanton 1996: 22)。

著者は1990年代前半の米軍の戦闘経験に基づき、発展途上国の暴動は事実上のゲリラ戦として側面があったとして、次のように論じています(Ibid.: 23)。
「例えばソマリアにおいては、兵士は戦闘員(gunman)と対決するのと同時に、投石や手にしたもので打撃を加える群衆とも対決した。射撃を加える戦闘員を捕獲するため、部隊が暴動を起こすソマリ族を圧迫し、打撃する場面が何度も生じた。同じ暴動に致死的な暴力と非致死的な暴力を組み合わせて用いたことが、反応をより複雑なものにしてしまった」(Ibid.)
つまり、治安維持部隊を襲撃する暴徒は意図的に女性や子供を捲き込むことによって、武装している戦闘員の安全を確保する場合があり、暴動鎮圧をより困難にする可能性があるということです。

治安維持部隊にとって、このような暴徒から戦闘員だけを見つけて捕獲することは極めて困難なことですが、もし暴徒の接近を無制限に許せば部隊に多くの損害を出すことになりかねません(図1)。
暴動鎮圧の状況図、白丸が非武装の群衆、黒丸が武装したゲリラ、四角が兵士、斜線が障害をあらわしている。武器を使用する人間を非武装の人間が守ることによって、兵士は武器の使用を制限される態勢となる。
(Ibid.)
米軍は1960年代から暴動鎮圧について研究しており、野戦教範(FM 19-15)では分隊4個からなる小隊を基礎とする隊形も考案されていました。
しかし、著者はこれでは1990年代の暴動に対処することは不可能と考え、新たな小隊編制を考案することにしました。

暴動鎮圧を戦術的に考察する
それまで分隊4個からなる小隊編制がドクトリンで定められていましたが、著者は分隊3個からなる小隊編制に置き換えることを提案しています(Ibid.: 26)。

その上で全体の兵力を暴動鎮圧、監視、予備、特殊任務という4種類の部隊に区分して運用するべきとされており、それぞれの任務は次の通り示されています。
  • 暴動鎮圧部隊:群衆に対峙して暴動鎮圧隊形で通常展開する部隊であり、その規模は指向可能な兵力の3分の2を超えるべきではなく、可能な限り小規模にとどめる。
  • 監視部隊:暴動鎮圧部隊の状況を監視し、致命的な脅威から掩護するために展開する部隊であり、これは指向可能な兵力の3分の1までの規模にまで拡大できる。この部隊には狙撃手と自動火器、そして双眼鏡と望遠鏡が必要である。
  • 予備部隊:緊急事態に対処するため予備として拘置される部隊。
  • 特殊任務部隊:迫撃砲小隊のように特別な機能を果たすための部隊であり、非致死性の装備を使用する。
著者の提案する部隊の編制とその配置。群衆の正面に対峙するのが暴動鎮圧部隊だが、その左右両翼に監視部隊を配置し、後方には予備の部隊と特殊任務を遂行する部隊が配置されていることが分かる。なお、配置は地形に応じて変更することができる。(Ibid.: 27)
これまでの暴動鎮圧の要領と比較すると、小隊の規模は縮小されていますが、その分を他の任務に当たらせることができるようになり、暴動の鎮圧要領により柔軟性を持たせることが可能となります。

例えば、著者は1,000名の暴徒が50名の部隊を圧迫して戦力比が圧倒的に不利になった場合であれば、阻止線を突破される前に部隊として発砲すべきと論じていますが(Ibid.)、暴徒が集中した地点に予備を展開して400名程度の戦力を確保していれば、1,000名の暴徒が圧迫してきたとしても、それほど危険な自衛措置を取る必要なくなり、結果として互いの損害も減ると論じています。

著者の提案で注目すべきは監視部隊の配置です。暴徒が占領する街路を左右に挟む建物については、監視部隊を常に配置しておかなければならない、と著者は念入りに強調しています(Ibid.)。
これは暴徒の中に潜む戦闘要員を特定し、必要に応じて狙撃を行うための戦力であり、正面に展開する主力に情報をもたらす役割も担います。

著者の見解によれば、暴動鎮圧で最も難しいのはこの監視部隊の配置を常に適切にすることです。
もし暴徒が街路を移動すれば、部隊も状況に応じて移動しますが、この際に監視部隊を移動させることは難しく、主力である暴動鎮圧部隊との連携を保つことにも困難が生じます(Ibid.)。

例えば、著者は車両でバリケードを破壊する際に、最も警戒すべきは暴徒からのRPGによる攻撃であると指摘しており、もしそのような場面で暴徒の両翼に配置された部隊の監視がなければ、撃破される危険があると警告しています(Ibid.: 28)。

むすびにかえて
このような研究は今の日本に必要ないように思われるかもしれません。しかし、平和維持活動のような任務を遂行する場合、現地住民の暴動に捲き込まれる危険も考えられるため、決して無関係というわけでもないのです。

また、暴動が不正規戦争の一部として極めて暴力的な形態をとる可能性があるという著者の指摘は反乱または対反乱作戦の様相を考える上で興味深いものです。

一般にゲリラ戦では政府の監視が届きにくい農村部に拠点を置かれますが、支持者が多い場合などでは都市部を拠点に活動する場合もあり、市街地では一般民衆を暴動で捲き込むことによって警察や軍隊から安全を確保することも一つのテクニックです。

近代以降の戦争では国外の正規戦争と国内の不正規戦争が相互に影響し合う事例も少なくなく、こうした不正規戦争の一面を知識として知っておくことも大事なことだと思います。

KT

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